お金がない

春秋花壇

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「償いの道」

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「償いの道」

名古屋地方裁判所の廊下は重たい空気に包まれていた。田中裕志は判決を受けるために立っていたが、肩はやや落ち込み、目は虚ろだった。執行猶予付きの判決が出ることは予測していたとはいえ、自分が犯罪に関与し、被害者の人生を傷つけたことが胸に重くのしかかっていた。

彼が「頂き女子“りりちゃん”」を自称する渡邊真衣と初めて会ったのは、歌舞伎町のホストクラブだった。渡邊は目立つ金髪で、煌びやかな装いをしていたが、どこかその裏には、薄暗い闇を宿しているように見えた。彼女は圧倒的な勢いでクラブに通い詰め、田中に次々と高価なボトルを入れ、破格の額を使っていた。田中は当然、その金が「怪しい」とは感じていた。だが、彼にはその金の出所を聞く勇気も、追及する気持ちも湧かなかった。

「俺がこの業界で頂点に立つためには、この金が必要なんだ」

田中はそう自分に言い聞かせて、目をつぶった。そして、「頂き女子」という、ネット上でいかにも華やかな名前を掲げる渡邊が見せる派手な表の顔と、時折垣間見せる冷酷な側面を無視することにした。

それから数ヶ月、田中の名声は店内で急上昇した。次第に他のホストや客から羨望の目で見られる存在に変わっていった。「ナンバーワンホスト」の称号は目前だった。しかし、その栄光が手に入った瞬間、SNSには「りりちゃん」の詐欺行為が暴かれ始め、彼もまたその渦に巻き込まれることとなった。

田中は警察に呼び出されたとき、心底後悔した。自分の欲のためにどれだけの人が犠牲になっていたのか、被害者の顔も名前も知らないまま金を手にしていたことが愚かに思えた。法廷での証言が進む中で、被害者たちがどれだけの苦痛と損害を被ったかを初めて実感したのだった。

裁判長の森島聡は厳しい口調で彼を非難したが、その言葉にはどこか情けを感じさせる温もりもあった。「彼は、その行為が誰かの人生を踏みにじるものであることを理解しながら、ただ自分の地位を上げるためだけに受け取った」と。森島の言葉が田中の心に刺さり、彼は涙をこらえることができなかった。

判決が下され、彼は執行猶予の5年という期限付きで自由を得たが、重い罰金と追徴金が課せられた。さらに、被害者への償いも求められている。田中は法廷を出ると、再び自分の人生を考え直し始めた。今後、ホストクラブに戻ることはできないだろう。しかし、彼の心には、罪を償い、二度と過ちを繰り返さないという強い決意が芽生えていた。

それからの日々、田中は昼間の仕事に就き、少しずつだが誠実な生き方を模索するようになった。彼は地味なスーツ姿で街を歩き、目立つこともなく、静かな生活を送っていたが、何かに心が満たされているのを感じていた。それは、かつて夢見た「ナンバーワン」の称号を得ることよりも、遥かに深い充実感をもたらしていた。

そしてある日、彼は一通の手紙を受け取った。それは、彼が補償を終えた被害者の一人からだった。「あなたのしたことは許されない。しかし、償いを続けていると聞き、私も少しだけあなたを見直しました」と綴られていた。田中はその手紙を静かに読み、深く息をついた。償いの道はまだ長いが、彼はその道を歩み続ける決意を新たにし、空を見上げた。その空には、彼の知らない未来が広がっているように見えた。









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