お金がない

「暗闇の連鎖」

「暗闇の連鎖」

ある男が、薄暗い部屋の片隅でスマートフォンを握りしめていた。その画面には、闇バイトの募集のメッセージが浮かんでいた。「簡単な仕事、高報酬、即日支払い」という文言に引き寄せられ、彼は迷うことなく応募ボタンを押した。バイトの詳細な内容は伏せられていたが、「初めての人でも安心」と書かれていた。自分には何も失うものがないと思い込んでいた男は、それが自らを罠に導く第一歩になるとは知らなかった。

翌日、男は駅近くのコンビニに集合するよう指示を受けた。指定された時間、指定された場所に立つと、すぐに見知らぬ二人組の男がやって来た。彼らもまた、同じメッセージに引き寄せられてここに来たのだろう。緊張した空気が漂う中、三人は顔を合わせることなく指示通りに男の車に乗り込んだ。行き先は一切知らされていなかったが、背後からの「やれ」とだけ書かれたメッセージが届き、彼らは指示に従って車を走らせた。

無言の車内、男の脳裏にはどこかで聞いた話がよぎっていた。「実行役は捕まる前提で、完全に使い捨てだ」——ニュースで犯罪に詳しい専門家が語っていた言葉だ。男は一瞬の不安を感じたが、頭を振り払った。目の前の報酬だけが彼の頭を支配していた。

目的地に着くと、車から降りるように指示が来た。その指示は淡々と、事務的に伝えられていた。男たちは無機質なメッセージの通りに行動し、やがて家の中へと足を踏み入れた。だが、その瞬間、老人の怯えた顔が視界に入り、彼の手が震えた。冷たい空気が漂い、無言の圧力が彼を襲った。自分がしようとしていることが一体何なのか、ようやく気づいたが、もう後戻りはできなかった。

数時間後、彼らのもとに警察が駆けつけた。逃げる隙もないまま、男たちは全員その場で逮捕された。あっけない幕切れに、男は放心状態で手錠をかけられた。あれほどまでに望んでいた「簡単な仕事」が、命と自由を失う代償として自分に降りかかってきたことを思い知った。

取調室で、男は何度も何度も同じ質問を受けた。「どうして応募したのか？」。彼は口を開きかけたが、言葉にならなかった。「欲と度胸があれば体一つでできる」。そんな甘い考えが、彼の心を縛りつけ、人生を狂わせたのだと気づいた時には、既に遅かった。

数年後、出所した男が街を歩いていた。世間は冷たく、彼を迎える者は誰もいなかった。仕事を探そうとしても、彼の経歴が邪魔をした。どこに行っても拒絶され、誰も信用してくれなかった。再び闇バイトの誘いが舞い込んだとき、彼はまたその道に足を踏み入れようとしていた。

それが、彼が決して抜け出せない「負の連鎖」であると気づいたのは、その後のことだった。