お金がない

春秋花壇

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義憤と罠の街

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義憤と罠の街

繁華街の一角にある、古びたビルの地下に小さな事務所があった。組員たちが、最近話題になっている闇バイト強盗団について、ささやき声で噂していた。事務所の壁には、「ウチの縄張りでの強盗行為は断固として許さない」と力強く書かれた義憤の告示が掲げられていた。

大組織の幹部である佐久間は、その告示を眺めながら、深いため息をついた。最近、闇バイトで集められた若者が首都圏で次々と強盗事件を起こしている。自分の指示でもないのに、無関係の暴力団がその背後にいるという噂が立ち、組織全体の評判が下がってしまっていた。

ある日、組員の一人が佐久間の元に若い男を連れてきた。彼の名は直人、20歳。初対面の印象は気弱そうで、犯罪には不向きに思えるような顔立ちだった。だが直人は、現実に金銭的な困難に直面し、SNSの書き込みに誘われて闇バイトに応募したのだという。直人はバイトとして強盗団に雇われ、最初の「任務」を果たした後、組織の目を逃れようと必死で奔走していた。噂を耳にして、佐久間は若者が本当に騙されたのか、それとも罪の意識が芽生えて逃げ出したのか、確かめる必要を感じていた。

佐久間は直人に目を向けて静かに問いかけた。

「お前、家族に危害を加えると脅されたとか、何か追い詰められているのか?」

直人はしばらく黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。

「はい……。実際に脅されました。でも、それだけじゃなく、自分がやったことが怖くなって……こんな風に逃げてきました」

佐久間はしばらく考え込んだ。自分も過去に何度も「やるか、やられるか」の場面を経験してきたが、若者の無知や弱さに付け込むこの犯罪手法には嫌悪感を覚えずにはいられなかった。このまま直人を見逃すか、それとも彼を守るために何らかの手を打つべきか、思いが揺れ動いた。

「どうするつもりだ?」

佐久間の問いに、直人はうつむきながら震える声で答えた。

「僕はもう戻りたくないです。でも、どこに逃げても見つかってしまいそうで……」

その時、佐久間の携帯が鳴った。相手は警察署の捜査官である河野。彼とは表向きの関係を保っているが、互いの利害が一致する時だけ情報交換を行う、奇妙な共存関係だった。河野は短く告げた。

「実は、最近の連続強盗事件に関する情報が欲しいんだ。お前さんの縄張りも含まれてるだろう?」

佐久間は少し考えた後、河野に条件を提示した。

「一人、関わってしまった若者がいるんだ。俺たちの縄張りで強盗を働かないという条件で、彼を警察の保護下に置いてほしい」

河野は一瞬沈黙したが、やがて「考えてみよう」とだけ返して電話を切った。

その後、直人を事務所の裏口から逃がし、佐久間は「これ以上、他の若者が巻き込まれないようにする」という決意を胸に、事務所の壁に新たな義憤の告示を掲げた。そこには、佐久間なりの覚悟と、闇バイト強盗団への警告が込められていた。

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