お金がない

春秋花壇

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証言

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「証言」

本橋日尚太(にっしょうた)は、再び暗い夜に足を踏み入れた。以前から気になっていた「即日バイト」の広告をついクリックしてしまった。欲しいものがあるわけではなかった。ただ、手元にお金が必要だったからだ。生活は苦しく、毎月の支払いに追われていた。少しでも楽になれば、と無意識に考え、次第にその世界に浸っていった。

「これでお前も一人前だ。」指示役の声が耳に響く。最初は戸惑ったが、次第にその指示に従うことが自然になった。警戒心を持ちながらも、指示通りに行動することが求められた。葛飾区の住宅に侵入する役目を与えられた日尚太は、必死に任務を果たした。

だが、2日目の事件で何かが違った。警察の捜査が早かったのだ。犯行現場に戻ると、警察官が集まり始めていた。「逃げなきゃ」と心の中で叫びながらも、足が動かない。家の中で何時間も物色していた後だった。慌ててその場を離れようとしたが、気づいた時には遅かった。

その時、彼の携帯が鳴る。見ると、交際相手からの着信だった。「日尚、警察が来てるって。」彼女の声は冷静だった。心の中で何かが弾けた。「どうしてそんなことを…」と彼女に問いかけたが、答えはなかった。

数時間後、日尚太は警察署に連れて行かれた。その間、交際相手の姿が頭に浮かぶ。彼女は、日尚太が犯行に加担している可能性があると感じ取っていたのだ。彼女が交番に駆け込んだのだ。

「彼氏が関与してるかもしれない」―彼女が交番でそう訴えたおかげで、日尚太は逮捕された。その瞬間、彼はどうして彼女がそんなことをしたのか理解できなかった。彼女を裏切るようなことをしていた自分が悪いのだろうか。だが、交際相手の行動が、どこかで彼にとって救いだったようにも思えた。

その後、捜査が進む中で、日尚太は供述を始めた。「金が欲しかった」と。闇バイトに誘導されたのは、ただ金が必要だったからだ。その世界に巻き込まれてしまい、抜け出せなくなった。

本橋は、交際相手に助けられた形となった。彼女の勇気ある行動が、彼の運命を大きく変えた。だが、それが本当に「救い」だったのか、日尚太には分からなかった。ただ、彼女のために何かを取り戻すことができるなら、それが唯一の希望となった。

数日後、捜査は進み、日尚太の供述を元に他の容疑者たちが明らかになっていった。日尚太の供述により、一連の強盗事件の実行役が特定され、逮捕者は40人を超えた。しかし、彼の心の中には、ただの後悔と空虚感しか残らなかった。

「結局、俺は何をしていたんだろう?」と、日尚太は自問自答する。金を手に入れるため、他人を裏切り、傷つけた。彼にとっての報酬は、最初から手に入らないものだったのかもしれない。

そして、交際相手の行動が、彼の運命を切り開いた。警察に訴えるという行為は、彼女にとっても決して簡単なことではなかっただろう。しかし、それが日尚太を救う手段だったとしたら、彼はその意味を深く考えるしかなかった。

「俺は、彼女のために変わらなきゃ。」そう心に誓った日尚太は、これからの人生で一度でもその誓いを守ることができるのだろうか。
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