お金がない

春秋花壇

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見えない罪の代償

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『見えない罪の代償』

東京・杉並区。職に就かず日々を過ごす古関陽介は、ある日SNSで「即金5万円」の誘い文句に目を奪われた。生活は苦しく、少しでも収入が欲しかった彼にとって、その言葉はあまりに魅力的だった。

「今すぐできる簡単な仕事。リスクは少ない。興味があればこちらまで。」

メッセージには詳細が書かれていないが、古関はとにかく話だけでも聞こうと連絡を取った。返信はすぐに来た。相手は、まるで親しい友人のようにフレンドリーな口調で話しかけてきた。

「お金、欲しいんでしょ?簡単なことだから、心配いらないよ。」

数日後、新宿の小さなカフェで古関は紹介者と対面した。彼は無造作に紙袋を渡してきた。中には何枚もの携帯電話のSIMカードが入っていた。案内されたのは、都内のいくつかの携帯ショップで「契約」をしてSIMカードを受け取ること。古関はそれらを特定の場所に届けるだけで即金がもらえるというのだ。

「大した手間じゃないだろう?SIMカードさえ手に入ればいいんだから。」

古関は疑問を感じつつも、その指示に従うことにした。そして、同じく「即金」の魅力に引き寄せられていた3人の仲間とともに、東京都内を回ってSIMカードを集める仕事をこなしていった。その中には自称声優の萩原百恵もいた。彼女もまた、声優の仕事が思うようにいかず生活に困っていた。

集めたSIMカードが何に使われるかなど、古関も萩原も特に考えなかった。彼らにとってはただの小さな「仕事」だった。報酬も約束通り支払われ、生活は少し潤った。それだけのはずだった。

しかし、ある日、古関のスマートフォンに突然、警視庁からの連絡が入った。

「詐欺容疑で任意同行をお願いします。」

その言葉に古関は震えた。何も悪いことはしていないはずだ。自分はただ、SIMカードを集めるだけの仕事をしていただけ。しかし、捜査官の口から告げられたのは、自分たちが関わったSIMカードが犯罪の温床となっていたという事実だった。

そのSIMカードは、詐欺集団によって不正利用され、海外からの高額な通話や電子決済の抜け道として悪用されていたのだ。自分たちが手にした「即金5万円」は、その犯罪の片棒を担ぐことによって得られた報酬だった。

古関は警視庁での取り調べを受けながら、徐々に自分が何をしてしまったのか理解していった。彼らがしていたことは、自分には見えないところで数えきれないほどの人々に被害をもたらしていたのだ。

「そんな…ただのお金のために、こんなことになるなんて…」

萩原もまた、自分の軽率さを悔やんだ。彼女は夢を追いかける生活の苦しさから逃れたくて始めた「仕事」が、まさか犯罪に加担することになるとは思ってもみなかったのだ。

取り調べの後、彼らは詐欺容疑で逮捕された。ニュースはすぐに報道され、彼らの顔写真や名前が世間に晒された。その報道を見たとき、古関の家族は沈痛な面持ちで涙を流した。かつて将来を期待されていた彼が、生活苦の中で犯罪の道に足を踏み入れてしまった現実を目の当たりにしたからだ。

逮捕後、古関は拘置所で日々を過ごしながら、自分の犯した罪の重さを噛み締めていた。たかが5万円のために、多くの人々を裏切り、自分の未来をも破壊してしまったことを悔やむ日々が続いた。

そして、彼は再び立ち上がるために決意した。出所したら、どんな苦しい生活でも、もう逃げずに真っ直ぐに生きていくと。簡単なお金に誘惑されることなく、自分自身の力で未来を築くことを誓ったのだった。






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