お金がない

春秋花壇

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拡大という罠

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拡大という罠

祐介は、友人と二人で立ち上げたアパレルブランド「リーブラ」が軌道に乗ったことで、心から嬉しく思っていた。最初は小さなネットショップから始めたが、オリジナルデザインのシンプルでスタイリッシュな洋服がSNSで話題になり、ファッション好きな若者を中心に人気が急上昇。自分たちの手で作り上げたブランドが世に広まる喜びに、祐介は毎日が充実していた。

そんな矢先、友人の慎也が「事業をもっと拡大してみないか」と提案してきた。慎也は、勢いに乗って実店舗を構え、大都市圏にまでブランドを広げたいと意気込んでいた。祐介も彼の提案に魅力を感じ、「今のうちに拡大すれば、ブランドがさらに大きくなり、もっと多くの人に届けられる」と考えるようになった。

ただ、祐介は少し気がかりでもあった。これまで自分たちはあくまで小規模で運営しており、在庫管理や配送は自分たちの手でなんとか回していた。しかし、店舗を構えるとなると必要な資金も多くなり、雇用や設備管理といった新たな責任が増えることが予想された。祐介はその不安を慎也に打ち明けたが、慎也は「今がチャンスだ」と言って譲らなかった。

祐介もいつしかその熱意に押される形で計画を進めることにした。資金は銀行からの融資と貯蓄でなんとか賄い、都心のショッピングモールに念願の実店舗を構えた。店舗には新しいラインナップを揃え、店内のデザインにもこだわって、ブランドの世界観を存分に表現するようにした。祐介と慎也は自分たちの手で作り上げた店舗に大いに誇りを感じていた。

オープン当初は予想以上の来店客で賑わい、店の売り上げも順調だった。しかし、しばらくすると少しずつ来店客数が減少し、店舗運営の負担が祐介に重くのしかかるようになった。日々の店舗管理に加え、在庫管理も難しく、オンラインショップで売れていた商品とは異なる需要があることに気づいたのだ。

「思ったほど売れていない。慎也、どうする?」

店舗の売上が安定しないことで、祐介は再び慎也に相談したが、慎也は「売上が低いのは一時的なものだから、広告を増やして集客を頑張ろう」と話すばかりで、具体的な改善策には触れなかった。

次第に、二人の考えにはズレが生じ始めた。慎也は事業拡大のためにさらに多店舗展開を視野に入れ、同時に新しい商品ラインの追加を検討していた。一方、祐介は目の前の店舗運営や在庫処理に手を取られており、「これ以上の拡大は危険だ」と感じ始めていた。

ある日、銀行から「融資の返済が滞っている」という連絡が入った。急速な事業拡大のために借り入れた資金の返済が追いつかず、資金繰りが苦しくなってきたのだ。店舗の運営費や人件費、さらに広告費用が重なり、売上以上に出費が増大していた。祐介は深い焦燥感に駆られたが、慎也は相変わらず拡大のアイデアを止めることがなかった。

「慎也、このままじゃ危ない。もう少し慎重になろうよ」

祐介が真剣な表情で話すと、慎也は不満げに顔をしかめた。

「祐介、今さら何を言ってるんだ?拡大しなければ、ブランドが衰退するだけだよ。動かずにじっとしてる方がリスクなんだ」

祐介はその言葉に違和感を覚えた。「慎重さよりも勢いが大事」と言う慎也の言葉が、目の前の現実を無視しているように感じられた。しかし、自分が言い出した拡大計画もまた、この状況を招いた原因であることを祐介も自覚していた。自分の中に芽生えた焦りや欲望に負け、計画も曖昧なまま突き進んできたのだ。

やがて、資金不足が深刻化し、彼らのブランドは危機に直面する。急遽、店舗の運営費を見直し、不要な在庫を処分し、広告費も削減せざるを得なくなった。しかし、いったん信頼を失いかけた経営は簡単には立て直らない。社員たちにも不安が広がり、離職者も増え、ブランドの評判も落ちていった。

ある晩、祐介はふとショーウィンドウの前に立ち止まった。自分たちのブランド「リーブラ」を象徴する服が、今は暗い店内の中で静かに吊るされている。どれも自分たちが一から作り上げたデザインだが、いつの間にか「人に届けるための服」から「売り上げのための服」になってしまっているように感じた。店舗運営の難しさ、経費の増大、ブランドの存続にかかる重圧。それらが全て、拡大に走りすぎた自分への戒めのように思えてならなかった。

数週間後、祐介と慎也は相談の末、事業の縮小を決断した。多店舗展開を見送り、オンラインショップを中心とした堅実な運営に戻すことにしたのだ。ようやく現実に即したビジネスモデルを見直し、無理のない計画で再出発を図る決意を固めた。

それからしばらくして、ブランドは少しずつ安定を取り戻した。規模は縮小したものの、商品には再び彼らの「届けたい」という想いが込められていった。無計画な拡大がもたらすリスクとその痛みを深く学んだ祐介は、今後は堅実な道を歩みながら、ブランドの成長を見守っていくつもりだった。








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