お金がない

会社経営の重み

会社経営の重み

大輔は、幼い頃からの夢を叶え、35歳で小さなカフェ「サニーデイズ」を開業した。地元の人々に愛される場所にしたいと考え、インテリアやメニューには細かな配慮をこらし、自慢のコーヒーと自家製のデザートを提供していた。開業から数ヶ月間は順調で、友人や家族も訪れ、評判も悪くはなかった。しかし、その裏で経営に関する悩みが次第に大きくなっていった。

大輔は経営や会計の知識がほとんどなかった。コーヒーの品質やレシピには自信があったものの、資金管理や売上、経費の計算方法についてはまったくの素人だったのだ。開業当初は、自分でできる範囲の計算をしていたが、次第に売り上げや経費が細かく増え、資金の流れが複雑になってきた。何がどこでどう動いているのか把握できない日々が続き、夜遅くまで帳簿をつけても数字が合わずに苛立つことが増えていった。

ある日、支払いが重なり、思いのほか多額の経費がかかっていることに気づいた。備品や食材の購入費、さらに家賃や水道光熱費など、店を運営するための支出が膨らんでいた。売上を上げるために広告費を使ったこともあったが、効果が出たのかどうかも自信が持てないままだった。

「どうして、こんなにお金が出ていくんだ…」

大輔は頭を抱えた。売上自体はそこまで悪くないはずなのに、なぜか帳簿を見れば見るほど利益が残らない。心のどこかで「経営なんて、きっと現場を頑張ればなんとかなるだろう」と考えていた自分が、今やあまりに甘かったことに気づき、焦りが募るばかりだった。

その夜、カフェの常連である杉田という中年の男性が閉店間際に訪れた。彼は会計士として働いており、いつも落ち着いた雰囲気で本を片手にコーヒーを楽しむお客だった。大輔は思い切って悩みを打ち明けてみることにした。杉田はしばらく話を聞いてから、優しい笑顔で静かに言った。

「大輔さん、経営はただの“作業”じゃないんですよ。数字が利益を生むためには、資金の動きをしっかり把握し、計画を立てることが大事なんです」

その言葉は、大輔にとって目から鱗だった。杉田は経営に必要な基本的なポイントをいくつか説明してくれた。まず、収入と支出をしっかり分けて、毎月の経費や利益を明確に把握すること。そして、何に一番コストがかかっているのかを知ることだと。

杉田のアドバイスを受けて、大輔は改めて帳簿を整理し、支出の内訳を一つ一つ確認していった。そうして初めて気づいたのは、カフェの利益を圧迫していたのが「無駄な在庫」や「宣伝費の無計画な支出」であることだった。大量に仕入れた食材が売れ残り、その廃棄に多額の費用がかかっていたのだ。さらに、広告宣伝費を無計画に使いすぎてしまい、集客効果が得られないまま費用が膨らんでいたことも判明した。

「こんなにも見落としていたのか…」

自己管理と経営知識の欠如が、大輔の経営に重くのしかかっていたことを痛感した。無知は取り返しのつかない失敗を招きかねない。彼はその日、心を改める決意をした。

翌日から、大輔は地道に経営の勉強を始めた。会計の本を読んで資金管理の基本を学び、毎月の売上や支出をまとめ、しっかりとした予算管理をすることを習慣化した。さらに、仕入れ先とも協力し、無駄を省いて在庫管理を厳しくした。広告も月ごとに効果を見直し、無駄のない範囲で行うようにした。

しばらくすると、少しずつだが会社の経営状況が改善し始めた。売上が上がらなくても、支出をしっかり管理することで利益が残るようになり、大輔の不安も次第に和らいでいった。そして、杉田への感謝も深まった。彼のアドバイスがなければ、自分はきっと経営の難しさに押し潰されていたかもしれないと思うと、身震いするほどだった。

ある日、カフェで杉田と再会し、これまでの苦労と学びを語り、心からのお礼を伝えた。杉田は微笑んで「これからも頑張って」と励ましてくれた。大輔は、経営に必要な知識はどれだけ現場を頑張っても補えないと知り、経営者として自分を一から見直す決意を新たにした。

カフェ「サニーデイズ」はその後も地域で少しずつ成長を続け、やがて地元の人々にとって欠かせない存在へと変わっていった。