お金がない

春秋花壇

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奪われた命、行き場のない証拠

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「奪われた命、行き場のない証拠」

薄暗い部屋の中、宝田真月は静かに天井を見つめていた。逮捕されてから数日が経つが、頭の中には未だに、あの日の夜の光景が鮮明に焼き付いている。金を奪い、命を奪ったその一瞬の感触、逃げ出した時の激しい心臓の鼓動。彼はその瞬間に取り返しのつかない道に踏み込んでしまったことを知りながら、どこか現実味を感じていなかった。

「指示役側に渡せってことか…」

宝田は、あの夜、後藤寛治の家から現金とネックレスを手に入れた時、すぐさま「シグナル」で送られてきたメッセージを確認した。「受け渡しポイントにすぐ行け」指示役の冷たいメッセージに従うしかなかった。指示通りの場所に向かい、被害品を渡した。彼にとってそれは、罪の重さを少しでも減らそうとする卑しい行為だったのかもしれない。

彼が拘束された今、警察は彼の車も自宅も隅々まで調べ上げた。しかし、奪ったはずの現金やネックレスなどの被害品はどこにも見当たらない。彼自身も、「証拠がない限りは罪を軽くできるのでは」という小さな希望を抱いたが、同時に、目に見えない恐怖が彼の内側を蝕んでいた。

指示役からの冷酷なメッセージが今でも頭を離れない。「お前にはもう選択肢はない。俺たちと共に生きるか、死ぬかだ」宝田はそれが真実だと感じた。彼の手元には何も残らないが、魂まで指示役に縛られてしまっていた。

宝田は自分がどのようにしてここまで追い詰められたのか、何度も自問していた。大学を中退し、仕事を失い、孤独な日々が続いていたある日、SNSのメッセージが彼に届いた。「高収入、短期間で稼げる仕事、誰にも知られずに稼げるチャンス」その甘言に釣られ、闇バイトに足を踏み入れた瞬間から、彼は抜け出す道を失ってしまった。

警察が彼の部屋を捜索しても、奪ったものは見つからない。全ては、指示役の手元に流れているのだ。指示役は、どこかで冷ややかな目で宝田の失態を見守っているかもしれない。もしかすると、宝田が捨て駒として利用され、簡単に切り捨てられることさえ想定のうちだったのかもしれない。

「なぜ、こんな道を選んでしまったんだ…」牢の中で宝田は悔やむように呟く。だが、彼の後悔は既に遅すぎる。彼の運命は、もう彼の手の中にはない。






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