お金がない

春秋花壇

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消えた明日

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消えた明日

仙台市太白区に住む70代の女性、佐和子は、一人暮らしをしながら平穏な日々を送っていた。しかし、7月6日、その平穏は一本の電話によって破られた。

「総務省です。2時間後にあなたの携帯電話が使えなくなります」という自動音声ガイダンスが、佐和子の耳に流れ込む。不安に駆られた彼女は、反射的に電話を切らずに続けてしまった。すると、「新宿警察署の木村」という男が電話に出て、信じがたい事実を告げる。「極秘捜査で逮捕者が出ています。どうやら、あなたの名前で携帯が契約されています。これは重大な問題です」と。

木村の声は冷静で、決して急かすようなものではなかった。しかし、その言葉の重みが佐和子の心にじわじわと染み込み、恐怖が静かに広がっていった。「極秘捜査」という響きに彼女は圧倒され、少しでも協力しなければ、さらに大きな問題が生じるのではないかと感じた。

木村はスマートフォンのメッセージアプリを通じて連絡を取るよう促した。そこで佐和子は、見知らぬ番号から次々と届く指示に従い、アプリ内で通話やチャットを始めることになった。その際に「これは本物の警察官である証拠だ」として送られてきた、いかにも警察手帳のような画像を見て、佐和子は不安ながらも信じ込んでしまった。

木村は「口座が安全かどうか確認が必要だ」と主張し、「私たちが調査をするための新しい口座を作ってほしい。そこに資金を移せば、あなたの大切な財産も安全になる」と説明を続けた。彼の言葉に、不安がますます募っていく佐和子。今まで家族や友人に頼ることなく、一人で決断をしてきた彼女は、このときもまた、自分ひとりで事態を解決するしかないと考え、言われるままに新しい口座を開設していった。

木村は、要所要所で「極秘」と「安全」という言葉を巧妙に使い、佐和子の不安をさらに煽りつつ安心させる手腕を見せた。こうして彼女は、まるで知らないうちに、自分の貯蓄をすべて新しい口座に移し続けることになった。気がつけば、彼女の全財産である約1億2千万円が手元から消えていた。

その後も、木村とのチャットは続いたが、ある日を境に彼の反応が途絶えた。不審に思った佐和子が地元の警察に相談した時、彼女の表情はすでに希望を失っていた。担当の警察官は状況を確認し、彼女が完全に詐欺に引っかかっていることを説明した。佐和子は耳を疑い、体から力が抜け、声も出なかった。

すべてが嘘だったと知った彼女の心に、深い失望と自己嫌悪が押し寄せた。警察官は「最近、こういった詐欺が増えています。高齢者の孤独や不安につけ込む悪質な手口です」と言ったが、そんな言葉では到底癒されるはずもなかった。

その夜、佐和子は思い出のアルバムを開いた。写真に写る家族や、かつて愛した人々の笑顔が、遠い過去のように思えた。「これからどうやって生きていけばいいのだろう?」そんな孤独と絶望に包まれながら、彼女はそっとアルバムを閉じ、窓の外に広がる夜の静けさを見つめた。

彼女は、もう一度人生を見つめ直す覚悟を決めることができるだろうか。その答えは、まだ彼女の心の中で揺らめいていた。









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