お金がない

春秋花壇

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偽りの愛

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「偽りの愛」

愛知県長久手市に住む47歳の女性、斎藤由美子は、その日、初めて会う男性とのデートに胸を高鳴らせていた。彼の名前は「黒瀬舟」と言い、解体業を経営しているという。マッチングアプリで出会った黒瀬は、メッセージのやり取りの中で、すぐに自分のビジネスの話や、将来の夢を語るようになった。由美子は、誠実で野心的な彼に魅了され、彼との未来を思い描くようになった。

「年収5千万円の資産家」「事業拡大のために海外に進出する計画」――彼の話は、まるで夢のようだった。由美子は、自分がこれまで経験してこなかった贅沢な生活や、愛されることへの期待感に胸を膨らませた。

その日、待ち合わせの場所に到着すると、黒瀬はすでに到着しており、彼の隣には秘書を名乗る武田という男が座っていた。武田はスーツを着こなし、まるで実業家の側近そのものだった。二人は由美子を温かく迎え、黒瀬は柔らかな笑顔で彼女に近づいてきた。

「お待たせしました、由美子さん。今日はお会いできて光栄です。」

黒瀬の笑顔は、彼のメッセージの印象そのままで、由美子は緊張しながらもその優雅さに安心感を覚えた。彼女は心の中で、ようやく自分にふさわしい人に巡り会えたのだと確信した。

第1章 愛の始まり
黒瀬との関係は急速に深まっていった。毎日のように届く甘い言葉と、未来への約束に由美子はすっかり心を奪われていた。黒瀬はビジネスの話だけでなく、彼女との結婚や将来についても真剣に語り始めた。

「僕のビジネスがもう少し安定したら、あなたを妻に迎えたい。由美子さんと一緒に幸せな家庭を築きたいんだ。」

彼の言葉に、由美子は何度も頷いた。彼の成功と野心に支えられ、自分もその一部になるという未来に期待を膨らませた。

しかし、その夢が崩れ始めたのは、ある日、黒瀬から切り出された話がきっかけだった。

「由美子さん、実は今、少し事業が忙しくて、資金繰りが厳しいんだ。下請け業者への支払いが遅れていて、工事が止まりそうなんだ。けど、心配しないで。すぐに売り上げが入るから、すぐ返せるんだ。少しだけ助けてくれないか?」

黒瀬の顔は真剣そのもので、彼の困難な状況を救いたいという一心で、由美子は快く彼にお金を貸すことを決意した。彼を助ければ、結婚の夢も現実になると信じていた。

「もちろんよ、舟さん。あなたが困っているなら、私が支えるわ。」

そう言って由美子は、持っていた貯金のほとんどを彼に渡した。彼女の心には疑いの影はなかった。黒瀬はすぐにお金を返すと言っていたし、彼の誠実さを信じて疑う余地はなかった。

第2章 裏切りの兆し
しかし、黒瀬からの連絡が途絶え始めたのは、それから数週間後のことだった。彼は「仕事が忙しい」と言い訳を重ね、会う約束も次々にキャンセルしていった。

「ごめん、今度会えるのは少し先になるかも。でも、必ず返すから待っててくれ。」

由美子は心配しつつも、彼の言葉を信じ続けた。しかし、時間が経つにつれ、彼との連絡はますます疎遠になり、ついには全く連絡が取れなくなってしまった。

不安に駆られた由美子は、思い切って黒瀬の秘書だという武田に連絡を取った。だが、武田もまた、黒瀬の行方を知らないと答えるばかりだった。

「彼は忙しい人だから、きっと大丈夫ですよ」と、武田は穏やかに由美子を安心させようとしたが、その言葉も次第に虚しく響くようになった。

その頃、由美子の心には疑念が生まれ始めていた。黒瀬のことを信じたい、しかし、自分が騙されているのではないかという不安が大きくなっていった。そしてついに、彼女は意を決して、愛知県警に相談することを決意した。

第3章 真実の追及
警察署で、由美子はこれまでの出来事をすべて話した。黒瀬の素性、彼に渡したお金のこと、そして彼との結婚の約束。警察はすぐに動き出し、調査が進むにつれて、黒瀬の正体が明らかになった。

黒瀬舟――その名前は偽名であり、彼の本名は江尻舟一(51)。彼は解体業の経営者などではなく、無職の詐欺師だった。さらに、秘書を名乗っていた武田佑気(32)もまた、江尻の共犯者であり、詐欺計画の一環として女性たちを騙す役割を担っていたことが判明した。

江尻はマッチングアプリで女性たちに接触し、偽の経歴を装って結婚をちらつかせることで、数千万円もの金を騙し取っていた。由美子以外にも、同様の被害者が複数存在し、被害総額は数億円に上る可能性があると警察は捜査を進めていた。

由美子は、その事実を知った瞬間、全身から力が抜けた。彼女が信じていた愛、未来の結婚生活、すべてが詐欺師の巧妙な罠だったのだ。自分が犯した愚かさに対する後悔と怒りが一気に押し寄せてきた。

「どうして、こんなことに…」と、彼女は声を詰まらせた。

第4章 再出発
その後、江尻と武田は警察によって逮捕されたが、由美子の心の傷は簡単に癒えるものではなかった。数ヶ月にわたって騙され続けたことで、彼女は再び人を信じることが怖くなった。しかし、周囲の家族や友人たちの支えもあり、少しずつだが、由美子は前に進む決意を固めていった。

「自分を責めることはない。彼らが悪いんだ。」そう言ってくれた友人たちの言葉が、彼女を救った。

マッチングアプリでの出会いは恐ろしい結果をもたらしたが、由美子はそれを教訓にし、慎重に再び人生の舵を取り直そうとしていた。彼女の未来には、まだ愛と幸せが待っていると信じていた。過去の失敗に屈することなく、由美子は新たな一歩を踏み出す準備を進めていた。
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