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春秋花壇

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闇の誘惑

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「闇の誘惑」

山口・光市の夜は、秋の冷たい風が吹き抜け、静けさが漂っていた。建設業を営む木村宅の近くに、三人の少年が立っていた。彼らは緊張した様子で、互いに視線を交わすが、誰一人として言葉を発さない。14歳、16歳、そして18歳の少年たちは、闇バイトで集められた「トクリュウ」という流動型犯罪グループに巻き込まれていた。

トクリュウ――それは、名前も顔も知らない者たちがSNSで簡単に集まり、犯罪を犯すためのチームだ。彼らに共通するのは、生活の厳しさと金への渇望。だが、その代償がいかに大きいか、彼らはまだ理解していなかった。

拓斗(18)は、スマホの画面を見つめながら思い出していた。ほんの数週間前、自分はごく普通の高校三年生だった。だが、家庭の事情で学校生活が崩れ、金が必要になったときにSNSで見つけた「高収入バイト」の募集に手を出してしまった。バイトの指示は曖昧で、犯罪の匂いが漂っていたが、彼はその匂いに鈍感だった。

「これで金が手に入れば、すぐに終わるんだ」

そんな軽い気持ちで始めたバイト。しかし、その「バイト」が犯罪だったことに気づいたとき、彼はすでに後戻りできなくなっていた。そして、今回の仕事。指示は簡単だった。「山口の光市に行って、指定された家に強盗に入る。それだけだ。」

仲間として集められたのは、見知らぬ14歳の少年と16歳の高校生。彼らもまた、家庭の問題や学校での居場所を失い、闇バイトに手を伸ばしてしまった者たちだった。

「おい、本当にやるのかよ」

14歳の竜太が、不安そうに拓斗に問いかける。手には工具が握られているが、その手は震えていた。

「やるしかないだろ。俺たちはもうここまで来てしまったんだ」

拓斗の声には、わずかな自信もなかった。自分でも、これが正しいとは思えなかった。しかし、彼は仲間の前で弱音を吐くわけにはいかなかったのだ。

その夜、三人は木村宅に向かって歩いていった。辺りは静まり返り、家の窓から漏れるかすかな明かりが彼らの心をさらに重くした。

「俺たち、本当に強盗なんかできるのかな…」

16歳の翔太がぼそりとつぶやいた。その言葉に、誰も答えることができなかった。三人とも、胸の内では同じ不安を抱えていたのだ。

目的の家の前にたどり着くと、拓斗はゆっくりと工具を手に取った。しかし、その瞬間、彼らの背後に光が差し込んだ。

「おい、お前たち、何をしている?」

突然の声に、三人は全身が硬直した。振り返ると、そこには警察官が立っていた。職務質問を受けた瞬間、すべてが終わった。

「俺たち、強盗しようと…」

翔太が呟くように答えたその瞬間、警察官の手が素早く動き、三人は連行されることとなった。

警察署の取調室で、三人は無言のまま座っていた。警察は彼らが「トクリュウ」という闇バイトに関わっていると見て、詳しい事情を聞こうとしていたが、誰一人として全貌を知っているわけではなかった。ただ、「簡単な仕事」だと言われ、金がもらえると信じて動いただけだった。

「君たち、これがどれだけ重大なことか分かっているのか?」

刑事の冷たい声が室内に響く。拓斗は下を向いたまま、何も答えることができなかった。自分がしたことの重さに気づいたのは、警察に捕まってからだった。14歳と16歳の少年たちも同じだろう。彼らはただ、目の前の金と、今の困難から逃れるために、この道を選んでしまった。

「強盗なんて、簡単に済むものじゃないんだ」

刑事の言葉に、三人は改めて現実を突きつけられた。彼らは一度選んだ道が、どれほど危険で愚かなものだったかを知ることになる。しかし、時すでに遅し。彼らの未来は、闇のバイトという罠にかかり、大きく歪んでしまったのだ。

三人はそれぞれ、少年鑑別所に送られることになった。彼らの罪は軽くはなく、家庭にも大きな影響を与えた。拓斗は両親に泣きながら謝罪し、翔太と竜太もまた、家族から厳しい叱責を受けた。だが、彼らの選択が変えることのできない現実を残した。

夜の光市は、何事もなかったかのように静かに包まれていた。だが、少年たちの心には、深い傷が残ったままだった。彼らはその傷と向き合いながら、これからどう生きていくべきかを考えざるを得なかった。

それは、闇の誘惑に負けた代償として、背負わなければならない重い罰だった。









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