お金がない

春秋花壇

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金がないなら何もできないという人間は、金があっても何もできない人間である

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「金がないなら何もできないという人間は、金があっても何もできない人間である」

「金がないと、何もできないんだよ…」

友人の佐藤がそうつぶやいたのは、居酒屋での飲み会の席だった。テーブルには空いたビールのジョッキや食べかけの料理が散らかっていたが、彼の顔には楽しさなど微塵も感じられなかった。佐藤は最近、仕事を辞め、無職の状態が続いている。そのストレスからか、いつも愚痴ばかり口にしていた。

「仕事もないし、金もない。結局、俺には何もできないってことだよな」佐藤は、いつも同じようなことを言う。

俺はグラスを手に取り、彼の言葉を聞きながら考えていた。佐藤の気持ちは理解できないわけではない。金がなければ、生活が成り立たないし、何か新しいことに挑戦する余裕もなくなる。だが、俺は同時にこうも思った。「本当にそれだけなのか?」と。

「金がないと、確かに辛いことは多いけど、だからって何もできないわけじゃないだろ?」

俺がそう言うと、佐藤は怪訝そうな顔をした。「は?どういう意味だよ?」

「いや、金がないなら、できる範囲でやれることを探せばいいってことだよ。別に、全部が金次第じゃないだろ」

佐藤は顔をしかめた。「そんな綺麗ごと言ったって、金がなけりゃ何も始まらないんだよ。お前だって、金があるからそうやってのんきに構えてられるんだろ?」

俺は少し考えた。確かに、俺は今のところ生活に困るほどの金欠にはなっていない。だが、かつては佐藤と同じように、金がなかった時期も経験していた。あの時、俺はただ金がないという事実に呑まれていただけだった。それが今、金を手にしたところで何かが大きく変わったかというと、そうでもない。

「佐藤、お前は、もし金が手に入ったら何がしたいんだ?」

俺が問いかけると、佐藤は少し驚いた顔をした。「そりゃあ、旅行でも行くし、欲しいものも買うし、楽しいことをいっぱいするさ」

「そうか。でも、金がない今だって、やろうと思えば楽しいことは見つけられるだろ?本当に金が必要なのは、どこかに行くことや物を買うことだけじゃないだろ」

佐藤は黙り込んだ。俺は続けた。

「俺も昔は、金がないから何もできないって思ってたよ。でも、よく考えたら、金があっても同じだってことに気づいたんだ。金があったら何かが変わると思ってたけど、実際には自分がどうするか次第なんだよ」

佐藤はじっと俺を見つめていた。何かを言おうとしているようだが、言葉が見つからないようだった。

それから半年後、俺たちは再び同じ居酒屋にいた。だが、その時の佐藤は以前とはまるで別人のようだった。彼は新しい仕事を見つけ、それなりに充実した生活を送っていた。もっとも、彼が得た収入は決して高額ではなかったが、彼自身の様子は前とは明らかに違っていた。

「やっぱりさ、あの時のお前の言葉、今になって分かってきた気がするよ」

佐藤が唐突に言った。俺は驚いて、彼の方を見た。「俺の言葉?何のことだ?」

「金がなくてもできることはあるって話だよ。あの時は、ただ言い訳ばかりしてたんだって気づいたんだ。金がないから何もできないって思い込んでたけど、実際には自分が何もしようとしてなかっただけなんだよな」

俺は静かに頷いた。佐藤は続けた。

「今の仕事は給料が高いわけじゃないし、決して贅沢な生活をしているわけじゃない。けど、少しずつ自分の中でやれることを増やしていったら、金がなくてもできることって結構あるんだって分かったんだ」

佐藤は笑みを浮かべた。それは、かつての彼からは想像もできないほど前向きな表情だった。

「最初は小さなことだった。公園に行って散歩したり、図書館で本を借りたり、無料のイベントに参加してみたり。金をかけずにできることが意外とたくさんあって、しかもそれが楽しいんだ。自分次第で、見える世界が全然変わるんだなって」

俺は彼の変化に驚くと同時に、彼がようやく自分の力で前に進み始めたことに嬉しさを感じていた。金があるかないかに関係なく、やりたいことや楽しみを見つける力。それこそが、本当に大事なことなのだろう。

「結局、金がないからって何もできない人間は、金があっても何もできないんだろうな」

佐藤がそう言うと、俺は笑った。「まあ、そういうことだろうな」

それからしばらくして、佐藤とは少し距離ができた。彼は新しい夢を見つけ、さらに挑戦を始めていたのだ。金がなくても自分を変えられると気づいた彼は、少しずつ自分の人生を築いていった。

「金がないなら何もできないという人間は、金があっても何もできない」

その言葉の意味を、俺は佐藤を通じて学んだ。人生は、金で左右されるものではない。むしろ、どんな状況でも自分を動かし続ける意志と努力こそが、未来を切り開く鍵なのだと。

俺もまた、彼に影響を受け、自分自身の人生において何が本当に大切なのかを見つめ直すことができた。金の有無は、ただの一つの要素に過ぎない。大切なのは、それをどう活かすか。そして、たとえそれがない時でも、前に進む力を持つことだ。

人生において金は確かに重要だが、それに依存することで見失うものが多い。金があるかないかに関わらず、自分自身の生き方を見つけること。それこそが、本当に豊かな人生を送るための道なのだと俺は信じている。

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