お金がない

春秋花壇

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私は働きづめだった。朝はファッションモデル、昼はパーティーコンパニオン、そして夜は芸者。すべてが私の時間を埋め尽くしていく。それでも、置屋の借金は膨れ上がるばかり。置屋のお母さんが勝手に高価な帯や着物を買い揃え、私がそれらを身に着けるたびに、「似合ってるじゃない」と笑う。けれど、その度に借金が増えていく。私の好きなものは選ばせてもらえない。私の意思など関係なく、すべてが「お母さん」の判断で決まっていく。高価な着物が増えるたびに、私は心の中でため息をついていた。

習い事もそうだ。長唄、清本、常磐津、小唄端唄、民謡、鳴り物、日本舞踊――月謝だってバカにならない。稽古に通うたびに、美容室に通うたびに、お金が出ていく。しかも、時々開かれる発表会には、少なくとも30万、多いと300万もかかるのだ。まるで無底のざるにお金を注ぎ込んでいるようだった。働いても働いても、何かが満たされることはなく、借金はただ積み上がる。

時折、全部を捨てて京都にでも逃げようかと考える。誰もいない新しい場所で、何もかもをリセットして生き直す――そんな逃避の妄想が頭をよぎることもある。でも、それはただの夢だ。親に仕送りをしている以上、そんな無責任なことはできない。私には家族がいる。家族が私に頼っている。

だから、私は小さな幸せを見つける。仕事の合間、公園で猫に会うこと、鳩にパン屑をあげること、雀に一握りのお米を撒くこと。そんな何でもない瞬間が、私の心を温めてくれる。小さな生き物が安心して私に近寄ってくるその光景は、まるで私が自分自身に近づける唯一の安らぎのようだった。ほっこりとした気持ちになって、心が少しだけ軽くなる。

金木犀の香りが秋の訪れを告げる季節になると、道路には枯葉が増えていく。私も少しずつ大人になっていくんだ、と自分に言い聞かせる。今の私には逃げる勇気もないし、逆に戦う気力もない。ただ、流れに身を任せながら少しでも楽しい瞬間を拾い集めていく。それだけが私に残された自由だった。

そんなある土曜日の昼下がり、仕事に追われる日々の中で、久しぶりに少し休息の時間が取れた。公園を散歩していると、クリスチャンの姉妹が子どもを連れて楽しそうにしているのが目に入った。子どもたちは笑いながら走り回り、木の下に腰を下ろして、石で地面に絵を描いている。

その光景に心が引かれた。私は自然と子どもたちのそばに行き、一緒に絵を描いて遊んだ。どんぐりや小石を並べて、即興の庭を作り、木の葉で色を加えたりして、無邪気な時間が流れた。その瞬間だけは、私の心の中のすべてがクリアになっていた。借金のことや仕事のことを忘れ、ただ純粋にその場を楽しんでいた。

「ありがとうね、茜さん。おかげで楽しい時間を過ごせたよ」と姉妹は微笑みかけてくれた。

「こちらこそ、ありがとう。私も楽しかったです」と答えた。

それだけのやり取りで、私は心の中が少しだけ暖かくなった。ほんの短い時間でも、誰かと共に笑い合い、共に過ごせることが、どれほど大切なものか。こんな小さな出来事が、私にとっては大きな癒しだった。

夜が訪れ、また仕事に戻る時間が来るけれど、今日のこの時間は私にとって特別なものとして胸にしまっておこう。いつか、もっと自由に、もっと自分らしく生きられる日が来ることを信じて、私はまた働き続ける。

「私は、少しずつでも大人になっていくんだ。」

そう自分に言い聞かせながら、私は再び現実の世界へと戻っていく。






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