お金がない

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
806 / 965

幸せの一口

しおりを挟む
幸せの一口

1. 避けられた炭酸
田村陽子は、糖尿病と診断されてから2年の月日が流れた。彼女は、甘いものや炭酸飲料を避けることを決意し、日々の食生活に気を付けていた。しかし、心の奥にある「コカ・コーラが飲みたい」という欲求を抑えるのは、時折辛いことだった。

その日、陽子は友人たちと久しぶりに会うことになった。会場は地元の居酒屋。久しぶりの再会に心が躍ったものの、メニューに並ぶ炭酸飲料を見て、彼女の胸はざわついた。みんなが楽しく笑いながら飲んでいる姿を見ていると、過去の自分が恋しくなった。

2. 思い出の味
その居酒屋には、冷たいコカ・コーラがメニューにあった。友人たちが次々と頼む中、陽子はその光景を見つめるばかり。かつては、彼女もビールや甘い炭酸飲料を片手に、笑い声をあげていた。

「どうしたの、陽子? 一緒に飲もうよ!」

友人の一人が明るい声で声をかけた。その瞬間、陽子の心は一瞬揺らいだ。「私も…」と口にする勇気が出なかった。病気に対する自分の意志が、彼女を引き留めていた。

しかし、思い出の味が彼女を誘惑した。二年前、夏の暑い日、友人たちと過ごした楽しい時間の中で、冷たいコカ・コーラを飲んだ時の感覚が蘇る。シュワシュワとした泡が口の中で踊り、甘さが広がるその瞬間は、幸福そのものだった。

3. 一口の勇気
「じゃあ、少しだけシェアしようか?」陽子は思い切って言った。友人たちは笑顔で頷き、コカ・コーラを頼んだ。運ばれてきた冷たい飲み物を目の前にした瞬間、彼女の心は高鳴った。氷の音が耳に心地よく響く。

コップに注がれたコカ・コーラは、黒く輝いて見えた。陽子は恐る恐るコップを持ち上げ、一口飲んでみることにした。炭酸が舌を刺激し、甘さが彼女の口の中で広がった。瞬間、彼女は懐かしさとともに、心が温かくなるのを感じた。

「おいしい…」彼女は思わず声を漏らした。

友人たちが笑い、陽子の心も弾んだ。久しぶりに感じたこの味、そして友人たちと過ごすひと時が、彼女の心を満たしていった。

4. 幸せの実感
その後、陽子は一口、また一口とコカ・コーラを楽しんだ。彼女は自分の病気を忘れることはできなかったが、食べ物や飲み物が持つ幸せの力を再確認した。お金がなくても、心が豊かであれば幸せだと、彼女は実感した。

「陽子、元気になったね! 今日は特別だよ!」友人の一人が言った。陽子は笑顔で頷き、自分の選択に少し自信を持つことができた。

飲み終わった後、彼女は心の中で「今日は大丈夫」と自分に言い聞かせた。たまには自分を甘やかしてもいいのだ。コカ・コーラを楽しむことが、彼女にとって特別な時間であり、忘れられない思い出を再び呼び覚ました。

5. 新たな気づき
居酒屋を後にし、夜空を見上げながら帰路につく陽子の心は晴れやかだった。甘さや炭酸がもたらす一瞬の喜びは、日常の中で大切なものだと感じた。お金がなくても、友人との時間や、小さな喜びが自分を幸せにする。

「また飲もう」と彼女は思った。次は少しだけ、もっと自分に優しくなれるかもしれない。そんな新たな気づきが、彼女の心を満たしていた。

家に着くと、彼女は自分の病気と向き合いながらも、これからの人生を楽しむ覚悟ができていた。食事や飲み物だけが幸せを与えるわけではない。自分自身が幸せであることを感じるためには、時には小さな冒険が必要なのだ。

終わり
陽子は、自分自身を許し、日常の中で小さな幸せを見つけることができた。これからも彼女は、愛する友人たちと共に笑い、時にはコカ・コーラの甘さを楽しむことで、心の豊かさを追求していくことを決めた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

始業式で大胆なパンチラを披露する同級生

サドラ
大衆娯楽
今日から高校二年生!…なのだが、「僕」の視界に新しいクラスメイト、「石田さん」の美し過ぎる太ももが入ってきて…

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...