お金がない

春秋花壇

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幸せの一口

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幸せの一口

1. 避けられた炭酸
田村陽子は、糖尿病と診断されてから2年の月日が流れた。彼女は、甘いものや炭酸飲料を避けることを決意し、日々の食生活に気を付けていた。しかし、心の奥にある「コカ・コーラが飲みたい」という欲求を抑えるのは、時折辛いことだった。

その日、陽子は友人たちと久しぶりに会うことになった。会場は地元の居酒屋。久しぶりの再会に心が躍ったものの、メニューに並ぶ炭酸飲料を見て、彼女の胸はざわついた。みんなが楽しく笑いながら飲んでいる姿を見ていると、過去の自分が恋しくなった。

2. 思い出の味
その居酒屋には、冷たいコカ・コーラがメニューにあった。友人たちが次々と頼む中、陽子はその光景を見つめるばかり。かつては、彼女もビールや甘い炭酸飲料を片手に、笑い声をあげていた。

「どうしたの、陽子? 一緒に飲もうよ!」

友人の一人が明るい声で声をかけた。その瞬間、陽子の心は一瞬揺らいだ。「私も…」と口にする勇気が出なかった。病気に対する自分の意志が、彼女を引き留めていた。

しかし、思い出の味が彼女を誘惑した。二年前、夏の暑い日、友人たちと過ごした楽しい時間の中で、冷たいコカ・コーラを飲んだ時の感覚が蘇る。シュワシュワとした泡が口の中で踊り、甘さが広がるその瞬間は、幸福そのものだった。

3. 一口の勇気
「じゃあ、少しだけシェアしようか?」陽子は思い切って言った。友人たちは笑顔で頷き、コカ・コーラを頼んだ。運ばれてきた冷たい飲み物を目の前にした瞬間、彼女の心は高鳴った。氷の音が耳に心地よく響く。

コップに注がれたコカ・コーラは、黒く輝いて見えた。陽子は恐る恐るコップを持ち上げ、一口飲んでみることにした。炭酸が舌を刺激し、甘さが彼女の口の中で広がった。瞬間、彼女は懐かしさとともに、心が温かくなるのを感じた。

「おいしい…」彼女は思わず声を漏らした。

友人たちが笑い、陽子の心も弾んだ。久しぶりに感じたこの味、そして友人たちと過ごすひと時が、彼女の心を満たしていった。

4. 幸せの実感
その後、陽子は一口、また一口とコカ・コーラを楽しんだ。彼女は自分の病気を忘れることはできなかったが、食べ物や飲み物が持つ幸せの力を再確認した。お金がなくても、心が豊かであれば幸せだと、彼女は実感した。

「陽子、元気になったね! 今日は特別だよ!」友人の一人が言った。陽子は笑顔で頷き、自分の選択に少し自信を持つことができた。

飲み終わった後、彼女は心の中で「今日は大丈夫」と自分に言い聞かせた。たまには自分を甘やかしてもいいのだ。コカ・コーラを楽しむことが、彼女にとって特別な時間であり、忘れられない思い出を再び呼び覚ました。

5. 新たな気づき
居酒屋を後にし、夜空を見上げながら帰路につく陽子の心は晴れやかだった。甘さや炭酸がもたらす一瞬の喜びは、日常の中で大切なものだと感じた。お金がなくても、友人との時間や、小さな喜びが自分を幸せにする。

「また飲もう」と彼女は思った。次は少しだけ、もっと自分に優しくなれるかもしれない。そんな新たな気づきが、彼女の心を満たしていた。

家に着くと、彼女は自分の病気と向き合いながらも、これからの人生を楽しむ覚悟ができていた。食事や飲み物だけが幸せを与えるわけではない。自分自身が幸せであることを感じるためには、時には小さな冒険が必要なのだ。

終わり
陽子は、自分自身を許し、日常の中で小さな幸せを見つけることができた。これからも彼女は、愛する友人たちと共に笑い、時にはコカ・コーラの甘さを楽しむことで、心の豊かさを追求していくことを決めた。






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