お金がない

虚構の警官

「虚構の警官」

鳥取市に住む80代の女性、佐藤静子は、いつもの静かな日常を過ごしていた。彼女の生活は穏やかで、特に事件に巻き込まれることなど考えもしなかった。しかし、9月5日、その平穏は突如として破られた。

その日は、突然の電話の音から始まった。電話の向こうから聞こえる声は、低く落ち着いた男性の声だった。

「佐藤さん、こちらは鳥取県警です。実は、あなたの口座に暴力団のお金が入っていることが確認されました。すぐに対応しないと、あなたも犯罪に関わってしまいますので、協力していただけますか？」

佐藤は一瞬戸惑ったが、その声の信頼感と急を要するという説明に圧倒され、不安が胸に広がった。「暴力団のお金」と聞いて、彼女は即座に恐怖を感じ、何か悪いことに巻き込まれているのではないかと思い込んだ。

「どうすればいいんでしょうか…？」静子は震える声で答えた。

「まず、あなたの銀行から現金を引き出していただく必要があります。そのお金を一時的に回収し、確認させていただきます。」その男は冷静に、具体的な手順を伝えた。

静子は、その指示に従うことにした。自分が犯罪に関与してしまうのではないかという恐怖心が、判断を鈍らせていた。彼女はすぐに銀行に向かい、全財産に等しい270万円を引き出した。彼女の手には、大金が詰まった茶封筒が握られていた。

銀行を出ると、再び電話が鳴った。今度は別の男が名乗った。

「こちらは警視庁です。引き出した現金は玄関の外に置いてください。すぐに確認しに行きます。」

「警視庁…」佐藤は、地方の警察だけでなく、首都の警察までが関与していると思い込み、ますます事態の深刻さを感じた。彼女は、その通りにお金を玄関の外に置いた。

静かに玄関を閉め、電話で報告を済ませた後、心配しながらも何もできずに待っていた。数分、数時間が過ぎても、何の返答もなかった。しかし、彼女はまだ「確認作業」が続いているのだろうと自分を納得させた。

10月13日、お金を返すと約束された日。だが、その日も何の音沙汰もなかった。胸の不安は、やがて恐怖へと変わった。彼女は意を決して、親族に相談した。状況を聞いた親族はすぐに詐欺だと気づき、警察に連絡した。

警察の調査によると、佐藤のような被害者は増えているという。犯人は、巧妙に信用を得るために警察を名乗り、特定のターゲットに心理的な圧力をかけていた。彼女は被害者の一人でしかなかったが、その罪悪感は深かった。

「どうしてこんな簡単にだまされてしまったのだろう…」佐藤は後悔し、悲しみに打ちひしがれていた。彼女が信じた「警官」の声、その冷静さと確信に満ちた口調が、彼女の疑念を完全に消してしまったのだ。

佐藤は今、失ったお金を取り戻すことができないまま、かつての静かな日常に戻ることができる日はもう来ないだろうと感じていた。しかし、彼女の経験が多くの人々に警鐘を鳴らし、同じ過ちを繰り返さないための教訓となることを願っていた。

「虚構の警官たちが、次のターゲットに手を伸ばさないように…」