お金がない

退職金運用に失敗した夫婦の悲劇

退職金運用に失敗した夫婦の悲劇

Aさんは、長年勤め上げた会社をようやく退職し、手にしたのは4,000万円の退職金だった。彼は妻と共に老後の生活を慎重に計画していた。だが、ある日、銀行を訪れた際、彼らの運命は大きく変わってしまう。

銀行員に案内されたのは「特別な部屋」。個室の静かな空間に、Aさんの妻は期待を膨らませていた。担当者が持ち込んできたのは「仕組債」という特別な金融商品だった。

「この商品は元本保証こそありませんが、年利13％で他の預金商品を大きく上回る利息が期待できます」と銀行員は自信満々に説明する。Aさんも妻も、そんな好条件に抗うことはできなかった。特に「特別なお客様」だという言葉が、彼らの心をくすぐった。Aさんは迷いながらも、妻の勧めもあり、退職金の大半をその金融商品に投資することに決めた。

数か月後、Aさん夫婦は冷や汗をかくことになる。株式市場の急激な変動で、彼らが購入した仕組債の価値は急速に下落していった。最初は楽観的だった夫婦も、次第に不安が募り始める。そして、最終的に受け取った通知には、彼らの4,000万円の退職金のうち、残っているのはわずか800万円という冷酷な現実が記されていた。

「どうしてこんなことに……」

Aさんは妻とともに銀行に相談に行ったが、担当者の表情は以前とはまるで違う。冷静に説明されるリスクの話を今さら聞いても、彼らの失った金額は戻ってこない。仕組債の複雑な構造やリスクの説明は、彼らには理解しきれなかった。銀行員の「特別なご案内」は、結局はただのビジネスに過ぎなかったのだ。

Aさんは怒りと後悔に打ちひしがれたが、もう遅かった。これからの老後の生活は、思い描いていたものとはまるで違うものになるだろう。信じていた銀行と、彼らが寄せてしまった「特別な」期待。その甘い誘惑がもたらした結末は、厳しくも残酷なものであった。