お金がない

タブレット端末と未来の行方

「タブレット端末と未来の行方」

風が強く吹く放課後、学校の前で高校2年生の大輝はため息をついた。片手には重たく感じるリュックと、もう片方には学校指定のタブレット端末。彼の家計は厳しく、母親の由美子が一人で彼を育てていたため、この端末の購入は大きな負担だった。

「タブレットが必要だって言われても……どうしたらいいんだ？」

彼は校門をくぐりながら、ふと足を止めた。周囲の同級生たちは皆、特に不満もなくタブレットを使っているように見えるが、裏では同じような悩みを抱えている家庭もあるだろう。昨今、公立高校でもタブレットが授業の必需品となっていたが、その費用は決して軽くはなかった。特に彼の家のように、母子家庭で生活費がカツカツの家庭には痛手だった。

「もう少し、学校が支援してくれてもいいのに……」

そうぼやきながら、自分の悩みを一人胸の中に閉じ込めた。

家に帰ると、母親の由美子が台所で夕食を作っていた。裕福ではないが、いつも温かい食事を用意してくれる母の背中を見るたびに、大輝は胸が苦しくなった。自分のために、彼女がどれだけ頑張っているのかを知っているからだ。

「ただいま」

「おかえり、大輝。今日はどうだった？」

「うん、まぁ普通だよ」

言葉少なに返事をする大輝を見て、由美子は何かを感じ取ったようだったが、深くは尋ねなかった。彼女もまた、タブレット端末の費用で悩んでいたことを大輝は知っていた。それは、家計を管理する母親として当然のことだ。

食事を終え、夜遅くまで大輝はタブレットで宿題に取り組んでいた。授業や課題の多くがデジタル化され、紙の教科書よりもタブレットが優先されることが当たり前になっていた。その便利さは実感していたが、一方で、これほど高価なものを家庭で負担するのは厳しすぎると感じていた。

その夜、彼は眠れずにベッドに横たわっていた。母親の負担を少しでも減らしたいという思いが胸に詰まり、どうすれば良いのか頭の中で何度も考えた。しかし、現状を変えるには、自分の力ではどうにもならないように思えた。タブレットの費用も、学費も、すべてが重荷になっている。

次の日の朝、学校に向かう途中で、駅前で行われている署名活動のグループが目に入った。「高校生のタブレット負担を軽減するための署名運動」と書かれた看板が掲げられ、数人の大人たちが熱心に話し合っていた。その中心に、母親らしき女性がマイクを握って訴えている。

「私たち親は、子どもたちにより良い教育を受けさせたいと思っています。でも、今のままでは、経済的に追い詰められる家庭が増えてしまう。タブレットがなければ、授業についていけない。でも、そのために無理を強いられるのはどうなんでしょうか！」

大輝はその言葉に立ち止まった。まさに自分の家庭が直面している問題を、声に出して訴えている女性を見て、彼は勇気を感じた。自分一人が感じているわけではない。多くの家庭が、この問題に直面しているのだ。

家に帰ると、大輝は母親に署名運動のことを伝えた。由美子は驚いたように目を見開き、その後で静かに微笑んだ。

「そう、そんな動きがあるのね。私たちも協力しなければね。大輝、あなたが気にしてくれるのは本当に嬉しいわ」

「母さん……」

大輝は母親の背中を見つめ、その強さに感謝しつつも、自分も何かできることがあるのではないかと思った。

次の日、学校の休み時間に大輝はクラスメートに署名活動のことを話してみた。最初は誰も興味を示さなかったが、一人二人と話を聞くうちに、同じように経済的な負担を感じている家庭が少なくないことに気づいた。彼らもまた、心の中で何かしらの不安を抱えていたのだ。

「俺たちも、もっと声を上げなきゃいけないんじゃないか？」

そう呟いた友人の言葉がきっかけで、大輝はクラス全員で署名に協力するよう提案した。学校の中で賛同する生徒が次第に増えていき、大きなムーブメントが生まれた。

そして数か月後、地元のニュースで大きな変化が報じられた。署名活動の結果、県の教育委員会がタブレット端末の費用軽減に向けて新たな支援策を検討し始めたという知らせだった。これには多くの生徒と保護者が感激し、裕福でない家庭にとって大きな希望となった。

大輝は、その知らせを母親と一緒にテレビで見た時、心の中で強い達成感を感じた。そして、これからも自分の未来に向けて、周囲と力を合わせて前に進むことを決意した。

「明日を変えるのは、今日の小さな一歩なんだ」と彼は静かに呟いた。