お金がない

歌に込められた警告

「歌に込められた警告」

広島のとある保育園では、毎日子供たちの元気な声が響いていた。しかし、近頃その歌声には、少しばかり異質なものが混じり始めていた。それは、広島県警が作成した「SNS型詐欺防止の歌」。明るいメロディと、かわいらしい子供たちの歌声。しかし、そこに込められたメッセージは、どこか不安を呼び起こすものだった。

「お金は二度と戻らない♪」

歌詞の一部を繰り返す園児たちの姿は、どこか奇妙に映った。その歌詞に合わせて、園児たちは一糸乱れぬ動きで踊り、歌い続ける。歌に合わせて、バックのスクリーンにはサイケデリックな模様が映し出され、カラフルな波打つ色彩の中で、警察官が次々と増えていく。

「お金は二度と戻らない♪ 　知らない人には気をつけて♪」

警察官のシルエットが増殖し、背景のカラフルな色彩は不気味に変化しながら、園児たちの歌声に合わせてリズムを刻む。その異様な雰囲気に、保育園の職員たちは最初は笑い飛ばしていた。しかし、次第に彼らの心には不安が芽生え始めた。

「何か、変だと思わないか？」

保育園の主任である大山は、同僚の保育士たちにそう問いかけた。しかし、誰も彼の懸念に対して真剣には向き合わなかった。子供たちが楽しそうに歌い、踊っている姿は、ただの教育の一環に見えたからだ。

だが、大山にはどうしてもその歌が不気味に思えてならなかった。特に、あのサイケデリックな背景と、増殖する警察官の映像が気味悪かったのだ。まるで、何かのメッセージを強制的に脳に刻み込むかのように、映像と歌は繰り返される。

数日が過ぎ、園児たちの行動に異変が現れた。いつもは無邪気に遊ぶはずの子供たちが、妙に静かになり、誰もが口を揃えて同じフレーズを繰り返すようになった。

「お金は二度と戻らない…」

一部の子供たちは、遊びの中で突然立ち止まり、何かに取り憑かれたようにその言葉を繰り返す。親たちもその異変に気づき始め、保育園に苦情の電話が殺到した。

「うちの子、ずっと家でも同じ歌を歌い続けるんです！どうにかしてください！」

園の対応が追いつかない中、大山はついに広島県警に問い合わせを入れることを決断した。警察署に到着すると、彼はすぐにそのプロジェクトの担当者である神崎警部に呼ばれた。

「この歌、問題ありませんか？」

神崎は笑みを浮かべながら答えた。「いや、大丈夫です。詐欺防止のための教育としては、これ以上ない成果を上げていますよ。子供たちはきちんと危険を認識し、社会で詐欺に騙されることを防ぐ力をつけています。」

だが、大山は納得がいかなかった。彼は歌そのものではなく、その歌が子供たちに与えている影響が心配だった。

「確かに教育は大事です。でも、子供たちの様子が普通じゃないんです。みんなが同じフレーズを繰り返し、まるで何かに取り憑かれたようになっているんですよ！」

神崎は一瞬だけ表情を硬くしたが、すぐに笑みを取り戻した。「それは一過性のものです。教育というのは、反復こそが大事なのです。詐欺に騙されないためには、このくらいの徹底が必要なんですよ。」

大山はその言葉に違和感を覚えた。確かに、詐欺防止は重要だが、あの歌には何かがある。あのサイケデリックな背景、そして増殖する警察官の映像。何かが、歌の背後で大きな力を動かしているような気がしてならなかった。

その夜、大山は家で一人、保育園で撮影した子供たちの動画を再生していた。何度も繰り返される「お金は二度と戻らない」という歌詞。そして、その映像が進むにつれて、彼は目を疑った。背景の警察官の数が増え続け、最後には画面全体が警察官で埋め尽くされていたのだ。

「これは…ただの歌じゃない…」

彼は慌ててパソコンの電源を切り、息を整えた。何かがおかしい。彼の脳裏に浮かぶのは、子供たちの無邪気な笑顔。しかし、その笑顔の奥に潜むものは何なのか。詐欺防止という名のもとに、子供たちの純粋な心に何が植え付けられているのか。

翌日、大山は警察署に再び向かった。今回こそ、何が真実なのかを突き止めるために。しかし、神崎警部の姿はどこにも見当たらなかった。受付に尋ねても、「そのような人物は当署には在籍しておりません」との回答が返ってくるばかりだった。

「神崎警部…？そんなはずは…」

彼は不安に駆られ、急いで保育園に戻った。しかし、そこには静かな園庭と、どこか遠くを見つめる子供たちの姿があった。彼らは、もう歌を歌わなくなっていた。だが、その無言の瞳には、何か得体の知れないものが宿っているように見えた。

広島県警の「詐欺防止の歌」は、確かにその役割を果たした。しかし、それがもたらしたものは、誰にもわからないまま、静かに広まっていったのだった。