お金がない

たらいまわし

「たらいまわし」

ある秋の午後、山田涼は突然、ネットが途絶えたことに気づいた。いつも仕事を進めるために使っているパソコンの画面は、サーバーに接続できないという無情なメッセージを表示している。涼は、何度かリフレッシュボタンを押してみたが、状況は変わらなかった。

「またか……」と涼は呟く。仕事は急ぎだし、オンラインミーティングも迫っている。慌てて自宅のWi-Fiルーターを確認するが、正常に動作しているようだ。次にスマホを取り出し、NTTのサービス状況をチェックするが、特に障害は報告されていない。涼はさらにイライラしてきた。

やむを得ず、NTTのカスタマーサポートに電話をかけた。電話がつながるまで数分待たされた後、ようやくオペレーターが出た。

「NTTサポートセンターです。ご用件をお伺いいたします。」

「自宅のインターネットが急に繋がらなくなったんですが、ルーターも問題ないみたいで……どうすればいいですか？」

オペレーターは涼の住所や契約内容を確認し、こう答えた。

「申し訳ございませんが、現在こちらのシステム上には問題が確認されておりません。お使いのプロバイダーに直接ご連絡いただく必要があるかもしれません。」

涼は少しイラついたが、仕方なくプロバイダーのサポートに連絡することにした。プロバイダーの電話窓口にかけると、ここでも数分待たされた。やっとつながると、再び同じように住所や契約情報を確認され、今度はこう言われた。

「こちらでは特に異常は見られません。ルーターの設定を一度リセットしてみていただけますか？それでも問題が解決しない場合は、NTT側で何かしらの制限がかかっている可能性がありますので、再度NTTにお問い合わせいただく必要があるかもしれません。」

「え？さっきNTTに電話したんですが、そちらに聞いてくれと言われましたよ？」

「申し訳ございません、そういった場合もございますが、まずはお客様の環境を確認させていただきます。」

そう言われ、涼は何度かルーターをリセットしたり、接続設定を再確認したが、やはり問題は解決しない。涼はだんだんと疲れを感じ始めた。仕方なく再びNTTに電話をかけ直したが、今度も同じようにたらいまわしにされた。

何度目かの電話のあと、涼はついに声を荒げた。

「何度も同じ話をしています！ネットが繋がらないんです！誰がこの問題を解決してくれるんですか？！」

一瞬、電話の向こうが静かになった。そして、オペレーターが落ち着いた声でこう答えた。

「お客様、非常にご不便をおかけして申し訳ございません。このまま私が一貫して担当させていただきますので、少々お待ちください。問題解決までしっかりサポートいたします。」

その言葉に、涼は少しだけ安堵した。しかし、結局問題が解決するまでには、さらに数時間かかった。

その夜、涼は疲れ切っていたが、何とか作業を終え、ベッドに入るとこう考えた。

「人間同士のたらいまわしも、たまにはインターネットに似ているのかもしれない……」

涼はスマホを握りしめ、再びつながったWi-Fiを確認してから、ようやく眠りについた。

お金があれば、ネッカフェに行けたのに……。