お金がない

春秋花壇

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虚構の警察官

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虚構の警察官

「私が警視庁の捜査官です」と、電話の向こうから威厳を装った男性の声が響く。田村静子は、一瞬心臓が跳ね上がった。この年になっても、警察という言葉にはある種の威圧感がある。しかし、その不安を押し隠し、冷静さを装った。

「何の用ですか?」静子は、震える声で返した。

「あなたの口座が犯罪に利用されている疑いがあります。すぐに確認する必要があります」

静子は驚いたが、内心で妙に納得してしまった。最近、どこかで聞いたようなニュースが頭に浮かび、彼らの指示に従うべきだと思い込んだ。

「私たちが確認するためには、持っている紙幣の番号を調べる必要があります。現金を準備し、公園のベンチに置いておいてください」

普通ならば、そんな話は怪しむはずだ。しかし、静子は自分が歳を取り、時代に遅れていると感じていた。スマートフォンの操作もままならない彼女にとって、デジタル犯罪やサイバーセキュリティの話は遠い世界のものだった。そのため、警察の言うことには従うしかないと感じていた。

翌日、静子は指示された通り、大金を袋に入れ、公園のベンチにそっと置いた。背後で誰かが見ているのではないかと疑う気持ちもあったが、「警察が見守っている」と言われれば、安心するしかなかった。彼女はその場を後にし、自宅で結果を待った。

数日後、再び電話が鳴る。「田村さん、確認が取れました。犯罪組織が動いていました。お金は無事ですので、しばらくお待ちください」

しかし、その電話の後、何の連絡もなかった。不安になった静子は、息子にこの出来事を打ち明けた。

「それ、詐欺だよ、お母さん!」息子の叫び声が電話越しに響く。「警察が現金を預かるなんてあり得ない。すぐに警察に連絡しよう!」

混乱した静子は、息子とともに警察署に向かった。事情を説明するうちに、真実が次第に明らかになっていった。警察官に成りすました詐欺師に騙され、貯めてきた全財産が失われたのだ。

数週間後、詐欺師たちは意気揚々と別の高齢者をターゲットにした計画を進めていた。田中誠という名の詐欺グループのリーダーは、自分たちの手口がばれない自信に満ちていた。

「また簡単に金が手に入るな。年寄りは本当に警察の名前に弱い」

彼らは自らの計画が成功する度、笑いが止まらなかった。次のターゲットも決まり、警察官になりすました電話が再び鳴る。しかし、その日、彼らの無敵とも思えた計画が崩れ去ることとなる。

「こちら、警視庁捜査班です」再び誠が電話をかける。しかし、今回は受話器の向こうで、鋭い声が返ってきた。

「お前たちは、もう終わりだ」

驚いた誠が声の主に返す間もなく、部屋のドアが突如として破られた。捜査員たちが一斉に部屋に突入し、詐欺グループは一網打尽にされた。誠はその場で手錠をかけられ、顔が蒼白になった。

「何が…どうして…」

それもそのはず、田村静子が被害に遭った後、息子が警察に徹底的な捜査を依頼し、詐欺師たちの動きを密かに追跡していたのだ。詐欺グループは、自らが使っていた手口に嵌り込み、警察の包囲網に捕らえられることになった。

手錠をかけられた誠は、拘束されたまま警察官に連れられて行く。「ざまを見ろ、お前たちはもう終わりだ」と吐き捨てる警察官の声が、誠の耳に鋭く突き刺さった。

田村静子は、その報告を聞きながら、息子と肩を並べて安心の息をついた。彼女のお金は戻ってこなかったが、犯人が捕まったことに少しだけ救われた気持ちになった。

「ありがとう、警察の方々が捕まえてくれたおかげで、これ以上の被害が出なかったね」

静子は、これからはもっと慎重に生きようと心に誓った。そして、詐欺に遭った悔しさと、それでもなお信じることができた正義への感謝の気持ちが、彼女の心を少しだけ温めていた。






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