お金がない

光を紡ぐ糸

2024年1～6月のSNS型投資詐欺の被害額は506億3千万円で、前年同期比7倍となっています。

光を紡ぐ糸

薄暗い部屋の中で、柔らかな月明かりがカーテンの隙間から漏れ、壁を照らしていた。息子が静かに眠っている。彼の穏やかな寝顔を見つめながら、涼子は心の中に渦巻く思いを整理していた。今、この瞬間は何気ない日常の一部だが、彼女たちが歩んできた道のりは決して平坦ではなかった。

涼子の息子、拓海は統合失調症を抱えている。彼が初めて病院に行ったのは中学生のときだった。最初は小さな変化だった。友達との関係がうまくいかず、孤立していく様子に気づいてはいたが、まさか病気が原因だとは思わなかった。彼の病状が悪化するにつれ、彼女の心もまた揺れ動いた。家族として何ができるのか、自分の無力さを痛感する日々が続いた。

ある晩、涼子は息子が一人でいる部屋を訪れた。彼は声を出すことなく、ただじっと外を見つめていた。彼女は無言で近づき、そっと肩を抱いた。拓海は振り向くことなく、冷たい視線を外に向けていた。彼女は何も言えなかった。ただ、その瞬間に彼の心の奥に潜む孤独を感じ取った。

数ヶ月前、拓海の病状が急激に悪化し、彼の精神はますます不安定になった。結局、家賃を三か月も滞納することになり、住んでいたマンションを追い出されることとなった。行く場所がない拓海は、母のもとへやってきた。母は小さなアパートに住んでいたが、彼女もまた年齢を重ね、体力が衰えていた。彼女の6畳の部屋と小さな台所は、二人には狭すぎた。しかし、他に選択肢はなかった。

夜が深くなり、部屋は静まり返っている。涼子はキーボードを叩きながら、息子が寝ているのを気にしつつも、物語の中に没頭した。母は睡眠障害を抱えており、最近は夜中に小説を書くことが増えていた。彼女にとって、物語を書くことは唯一の安らぎだった。小さな幸せを見つけるために、心の中にある光を求めているのだ。

「お風呂に入った時の、あの温かさ。最高の贅沢だな。」涼子は、ふと思い出した。先月のガス代が3000円にも満たなかったことに、心から感謝している。数回しかお風呂に入れなかったが、その中で彼女たちはお湯の温かさをしっかりと楽しんでいた。彼女はそれを最高の贅沢だと感じていた。

「小さな幸せを感じられるのに、詐欺なんてしなくていいのに。」涼子は自分に言い聞かせるように呟いた。世の中には人々を騙すことによって得られる金銭があるが、それよりも彼女たちは本当に大切なものを大切にしている。ガス代が安く抑えられたこと、温かいお風呂に入れたこと、そして息子がそばにいること。

拓海の睡眠が浅いことを思い出し、涼子は音を立てないように注意を払った。彼女の物語は、現実の闇から少しでも光を取り出すことができるだろうか。物語を書き続けることで、彼女は希望の光を探し続けた。彼女の中には、愛する息子を支えたいという強い思いがあった。彼女は、拓海が少しでも心穏やかに過ごせるように、全力で彼を守ると決意した。

その夜、涼子は小説の中に、自分たちの生活を重ね合わせた。小さなアパートでの生活や、母と息子の絆、そして彼らが見つける幸せのかけら。彼女は彼らの物語を描くことで、現実の厳しさを少しでも和らげようとしていた。彼女の文字がページを埋めていくうちに、心の中に温かさが広がっていくのを感じた。

数週間後、涼子は拓海と一緒に公園に出かけた。穏やかな日差しが降り注ぐ中で、彼女は息子と一緒に花を見つめていた。花々が咲き誇り、風に揺れる姿に、涼子は小さな幸せを感じた。拓海もまた、少しずつ笑顔を取り戻しつつあった。

「この花、きれいだね。」拓海が小さな声で呟いた。その言葉に涼子は心が温かくなり、彼の側に寄り添った。彼女は彼の小さな成長を見守りながら、これからも一緒に歩んでいくことを心に決めた。どんな困難が待ち受けていても、彼女は拓海を支え続けるつもりだった。

涼子は深い夜の闇を乗り越え、朝の光が差し込む日を夢見ていた。彼女たちは、どんな逆境にも立ち向かう力を持っている。小さな幸せを見つけながら、彼女はこれからも物語を書き続け、息子と共に未来を見つめていくのだった。