お金がない

春秋花壇

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監視社会の闇

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『監視社会の闇』

現代の日本、都市の喧騒は続いていた。どこを歩いても、いたるところに防犯カメラが設置され、人々はその目に見守られながら日常を送っていた。街角、駅、ショッピングモール、すべての場所にカメラの視線があった。しかし、そんな中でも詐欺被害は後を絶たず、社会の裏側には影が広がっていた。

真理子は、日々の暮らしに追われていた。仕事が終わると、いつも通りの帰り道を歩く。スマートフォンの画面に目をやりながら、何気ないニュースを読み流していると、「新たな詐欺手口、急増中」との見出しが目に入った。彼女はため息をつきながら、無力感に苛まれる。どれだけのカメラが、実際の犯罪を防げているのだろうか。

「詐欺被害者の数が増えているって、どういうことなの?」と、友人たちと話しているときも、彼女の口から出るのはいつも同じ疑問だった。日本は監視社会と呼ばれるほど、カメラがあふれている。それなのに、詐欺被害が減るどころか、ますます深刻化している。彼女はこの矛盾に頭を悩ませる。

ある日、真理子は友人から紹介されたセミナーに参加することにした。そのセミナーは、AIを使った犯罪防止の取り組みをテーマにしていた。会場に着くと、多くの人が集まり、期待に胸を膨らませている。講演者が壇上に立ち、AIの可能性について熱く語る。「AIは、監視カメラの映像を解析し、異常を検知することができます。犯罪の予兆を見つけ出し、迅速に対応することが可能です。」

真理子はその言葉に興味を持った。もし本当にAIが詐欺を防げるのなら、社会は大きく変わるかもしれない。しかし、心の奥で「本当にそれが実現できるのか?」と疑念が渦巻く。

セミナーが終わり、真理子は帰路につく。彼女は自分の考えを整理しながら歩いた。AIが詐欺を防ぐためのシステムがあっても、実際にはどれだけの人がそれを利用しているのか、また、その技術がどれだけ信頼できるのか。そんなことを考えながら、家に帰りつくと、ニュースをつけた。

「高齢者を狙った詐欺事件が発生。被害額は数百万にのぼる」との速報が流れていた。真理子は胸が締め付けられる思いがした。彼女の祖父母も高齢者で、彼らが詐欺のターゲットにされるのではないかと心配になった。彼女は、彼らに注意喚起するために連絡を取ることにした。

翌日、真理子は祖父母に会いに行った。久しぶりの訪問に、彼らは喜んでくれた。お茶を飲みながら、最近のニュースを話題にした。すると、祖母が「最近、電話が多くて困ってるのよ。知らない番号からかかってきて、詐欺じゃないかと思って」と言った。真理子は祖母の言葉に耳を傾けながら、心が痛むのを感じた。

「電話の内容はどういうことだったの?」と尋ねると、祖母は詳細を話してくれた。どうやら、銀行の職員を名乗る人物がかかってきたらしい。真理子はその話を聞いて、自分がどれだけ無力だったのかを実感した。カメラの目があっても、詐欺師たちは巧妙に手口を変え、対象を選んでいるのだ。

「おじいちゃん、おばあちゃん、知らない人の話には乗らないようにしてね。特に電話は注意して」と真理子は強調した。祖父母は頷きながら、心配そうに彼女を見つめていた。

その日の帰り道、真理子はAIの可能性について考え続けた。犯罪を未然に防ぐことができるかもしれない技術があるのに、それを十分に活用できていない現実がある。カメラは監視するが、それを見ている人間の意識が伴わなければ、意味がないのではないか。

「監視社会に生きる私たちが、何を考え、何を行動するかが重要なんだ」と、彼女は自分に言い聞かせた。技術は確かに進化しているが、それを使う人間が意識を持たなければ、犯罪は減らない。情報の受け取り方や意識の持ち方が、犯罪防止の鍵になるのだ。

帰宅した真理子は、自分のSNSアカウントで、詐欺の手口や注意喚起を呼びかける投稿を始めた。人々が情報を共有し合うことで、少しでも詐欺の被害を減らすことができるかもしれない。彼女の周りの人たちが、監視社会の中で互いに目を光らせ、助け合えるようなコミュニティが形成されることを願った。

監視社会の中で、真理子は一つの灯りとなることを決意した。AIやカメラがどれだけの力を持っていても、最終的には人のつながりが犯罪を防ぐ力になるのだと信じて。彼女は、未来の日本がより安全で温かい場所になることを願い、日々を生きていくことにした。








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