お金がない

賢王ソロモンのむなしさ

「賢王ソロモンのむなしさ」

ソロモン王は玉座に深く腰をかけ、部屋の中に響く静けさの中で、彼の思考は尽きることなく巡っていた。彼の周囲には金と宝石があふれ、彼が築き上げた巨大な王国は栄光の頂点にあった。だが、その壮麗さに目を向ける度に、彼は心の奥に深い虚しさを感じていた。

彼は多くのことを成し遂げた。王位を継いだ若き日に比べて、彼は知恵の王として称賛され、多くの者がその知識を求めて訪れた。しかし、年を重ねるにつれて彼は感じるようになった。自分が得た知恵も富も、ついには何の意味も持たないのではないか、と。

ソロモンは立ち上がり、王宮の広い窓辺に向かって歩いた。外には彼が建てた壮麗な神殿が見える。多くの民が祈りを捧げ、その神殿はイスラエルの信仰の中心であり続けていた。しかし、ソロモンの目にはその壮大な建築すらも色褪せて見えた。何度も心の中で「全ては虚しい」と呟く自分を感じた。すべての努力、知恵、富、栄光、それらが本当に何かを残すのだろうか？

「何と虚しいことか…」彼は静かに呟いた。

ソロモンは自分がこれまでにしたことすべてを思い返した。彼は富を積み上げ、強大な軍を整え、多くの外国の女を娶った。だが、それらは一時的な満足感しか与えてくれなかった。それどころか、心の平穏を乱すことが多かった。美しい妻たちが彼を取り囲み、夜ごとに贅沢な宴が開かれていたが、彼の心は空っぽだった。

「私は、何のために生きているのだろう？」

彼はかつての自分を振り返る。若き日のソロモンは、神から与えられた知恵を最大限に活かし、国を導いてきた。その知恵は王国を栄えさせ、彼を「知恵の王」として人々に崇めさせた。だが、その知恵が彼にもたらしたのは、真実を見極める苦痛でもあった。知恵が多ければ多いほど、世界の不完全さや自分自身の限界を知ることになる。そしてそれは、彼をさらなる虚無感に導く。

「すべてのものは、太陽の下で過ぎ去るにすぎない。」

ソロモンは自らの声が虚空に消えていくのを感じながら、その言葉に重みを感じていた。彼はこの地上に新しいものは何もないと知っていた。すべては繰り返し、世代は去り、新たな世代がまた同じことをするだけだ。彼が築いたものも、次の世代によって忘れ去られるだろう。何の変化もない、同じサイクルが続くだけだ。

「我が息子よ、もしこの玉座を受け継ぐ日が来たら、私と同じ過ちを犯さないでくれ」

彼は王位継承者である息子、レハブアムの顔を思い浮かべた。だが、ソロモンはその若い息子に知恵があるかどうか、疑念を抱かざるを得なかった。彼の跡を継ぐ者が王国をうまく治めるかどうか、それすらも虚しい思考だった。彼がどれほどの知恵を持とうとも、未来を予見することはできない。

ソロモンはもう一度、外の光景に目をやった。太陽はまた昇り、同じ場所に戻っていく。風は吹き、川は海に流れ、また始まりに戻る。そして、彼の命もまた、同じように巡り終わるだろう。

「この世の全ては、風を追うようなものだ」

彼はその言葉を繰り返しながら、自分の胸の中に残る哀しみを感じた。神から授かった知恵も、彼を完全な喜びに導くことはなかった。むしろ、知識を得ることが、彼の苦しみを増幅させただけだった。どれほど多くのことを知っても、答えは見つからなかった。

ソロモンは深く息を吸い込み、再び玉座に戻った。彼は人生のあらゆる側面を知り、享受してきた。しかし、それでもなお、何も得られなかった。彼は自分の中に湧き上がる虚しさを持ちながら、この地上の旅を終えることになるだろう。それが彼に与えられた運命であり、すべての者が避けられない道なのだ。

「知恵が多いと、いら立ちも多い。それで人は知識を増やすと、痛みが増す」

彼の最後の言葉は、静かな部屋に響き渡り、やがて沈黙の中に溶けていった。