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春秋花壇

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生きるための必要経費

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生きるための必要経費

東京・板橋区の小さな民家には、80代から90代の高齢3姉妹が一緒に住んでいた。夫を亡くした後、それぞれの家を畳んで集まり、互いに支え合いながら慎ましい生活を送っていた。夏が来ると、蔵津直子、湯浅登喜、そして坂本登茂はエアコンを避ける生活を続けていた。彼女たちはクーラーの冷たさが肌に合わず、特に直子は「昔の日本はこんなに暑くなかった」とよく話していた。

その日の東京は、猛暑の中でも少し落ち着いた空気を感じさせる日だった。午前10時、玄関先に置かれた郵便物が積み重なっているのを見た隣人の佐藤さんは、心配になって姉妹の家を訪れた。何度呼び鈴を鳴らしても返事がない。数日前に顔を合わせたとき、彼女たちは普段通りの元気そうな姿を見せていたのだが、ここ数日、誰も見かけなかった。

佐藤さんはその後、遠くに住む姉妹の親族に連絡を取った。親族は「連絡が取れないのはおかしい」と感じ、すぐに安否確認を依頼した。知人が家に訪れ、鍵を開けた瞬間、冷たく感じる空気が部屋から流れてきた。しかし、それはクーラーの涼しさではなく、長い間閉め切られた室内の死寂だった。

寝室にいた長女の直子は静かに横たわり、まるで眠っているかのように見えた。玄関には次女の登喜が倒れており、居間では三女の登茂がそのまま座り込んでいた。窓は全て閉め切られ、エアコンは使用されていなかった。

「姉妹はエアコンが嫌いだった」と、親族は語る。

暑さの中、冷たい空気を嫌い、窓を閉じて自然な風を待つ生活を続けていた。しかし、その暑さは彼女たちの体力を次第に蝕んでいったのだ。警察の調べによれば、死因は熱中症とみられ、既に3日以上が経過していた。家の中は異常に高い温度がこもっており、彼女たちは少しずつ力を失い、そのまま静かに息絶えた。

佐藤さんは後から知ったその事実に、胸が締め付けられた。あの時、もっと早く異変に気づいていれば、彼女たちはまだ生きていたかもしれない。肩を落として言葉を失う親族を見て、佐藤さんもまた、深い後悔に包まれた。

「14400円。高かったけど、命のお金だったんだ……」

数ヶ月前、佐藤さんもエアコンを買い換えるか迷っていた。電気代は確かに高かったが、その時彼女は「命を守るための投資だ」と思い直して、新しいエアコンを取り付けた。猛暑の日々、エアコンなしでは耐えられないと知っていたからだ。

姉妹の訃報が広がると、近所の住民たちはみな口を揃えて「元気だったのに、どうして……」と驚いた。しかし、その陰には見えない慢性的な疲労が潜んでいた。高齢者は暑さを感じにくくなり、喉の渇きにも気づかないことが多い。姉妹は、毎日を穏やかに過ごしているように見えて、知らぬ間に熱中症に侵されていたのだ。

町内会ではその後、エアコンの使用を呼びかけるポスターが急いで掲示された。特に高齢者には、猛暑の中で自分の体調に注意するようにと、何度も強調された。「暑い日には、エアコンを使ってください。窓を閉め、涼しく保つことが命を守る第一歩です」と書かれている。

佐藤さんは毎朝、エアコンのスイッチを押すたびに、姉妹のことを思い出す。「あの時、もっと強く勧めていれば……」と自責の念に駆られる日々が続く。

「命のお金」——その価値は計り知れない。

エアコンの電気代は高いかもしれないが、その背後には、命を守るための必要経費が隠されていることを、佐藤さんは改めて痛感していた。高齢者にとって、猛暑の中でエアコンを避けるのは、命を危険に晒す選択に他ならない。特に、長時間の暑さにさらされると、熱中症は突然忍び寄り、命を奪う。

その後、町内会は高齢者向けの暑熱対策セミナーを開催し、エアコンの適切な使い方や暑さに慣れるための方法についての指導を行った。少しずつだが、住民たちは変わり始めた。エアコンを使うことに対して抵抗感を持っていた人々も、次第に「これは自分たちの命を守るための手段だ」と理解し始めたのだ。

佐藤さんはセミナーに参加し、今後は隣人たちにも積極的に声をかけていこうと決めた。「みんなが無事でいることが、何よりも大事だから」と心に誓いながら。






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