お金がない

陽太の微笑み

「陽太の微笑み」

1月の寒い日、兵庫県に住む佐藤遥子は、寂しさと希望を抱えて婚活アプリに登録した。長年の結婚生活が破綻し、彼女は再婚を望んでいた。しかし、歳を重ねるにつれ出会いの機会は減り、インターネットの力に頼らざるを得なかった。今回選んだのは、大手企業が運営する有料のマッチングアプリ。免許証などの本人確認も必要で、信頼できると感じた。

2月になると、一人の男性からメッセージが届いた。「陽太」と名乗るその男性は、42歳の会社員で、爽やかな顔写真をプロフィールに載せていた。離婚したばかりの遥子は、心の隙間を埋めてくれるような存在を求めていたため、彼のメッセージを受け取ったときに自然と心が開いていった。

「おはよう」「今日はどんな一日でしたか？」陽太からのメッセージは穏やかで、毎日のように送られてきた。仕事で忙しい時でも、彼は待っていてくれたし、深夜までメッセージをやり取りすることもあった。陽太との会話は、まるで長年知っている友人とのように、自然で心地よいものだった。

「最近、君と話すことが一日の楽しみだよ」と陽太は微笑む顔文字を添えて言った。その言葉に遥子の心は温かく包まれ、彼女の胸には再び恋の感情が芽生えていた。彼の優しさと誠実さに、遥子は次第に信頼を寄せるようになった。

ある日、陽太が相談を持ちかけてきた。「実は、会社で新しい事業に挑戦していて、今少し資金繰りが厳しいんだ。少し助けてくれないか？」彼の言葉には緊張がにじんでいたが、遥子はすぐに応じた。彼が困っているなら助けたい、彼が自分を信じて頼ってくれることに喜びすら感じていたのだ。

最初に50万円を振り込んだ。彼からはすぐに感謝のメッセージが届き、「君のおかげで仕事が前進した」と言われ、遥子の胸は喜びで満たされた。だが、これが始まりだった。

その後、陽太はさらに困難に直面したという。「もう少しでプロジェクトが成功するんだ。でもあと少し資金が必要で……」遥子は自分の貯金を取り崩し、200万円、500万円と次々に振り込んだ。彼の成功を信じ、彼との将来を夢見て、疑念を抱くことはなかった。

その間、陽太とのメッセージのやり取りは続いていた。「君との毎日は本当に大切だ。お金のことが落ち着いたら、必ず君に会いに行くよ」と陽太は約束した。

だが、2400万円を振り込んだ後、突然、陽太からのメッセージが途絶えた。遥子は最初、仕事が忙しいのだろうと思い込もうとしたが、何日経っても返事はなかった。焦りと不安が募る中、遥子は初めて陽太の存在に疑念を抱いた。

彼のアカウントにアクセスしようとしたが、すでに削除されていた。遥子の胸に恐ろしい現実が突き刺さる。「詐欺だったのか？」目の前が真っ暗になり、彼女は震える手で警察に連絡を取った。

警察は陽太の正体が詐欺師である可能性が高いと告げた。遥子は呆然とし、彼への信頼と愛情が一瞬にして崩れ去った。彼女が信じて託したお金も、彼との約束も、すべては虚構だったのだ。

自分が何度も聞いた「ロマンス詐欺」という言葉が、まさか自分自身の現実になるとは思わなかった。信じた相手に裏切られ、遥子の心には深い傷が残った。

「どうしてこんなに簡単に信じてしまったのだろう……」彼女は自分自身を責めるしかなかった。