お金がない

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
677 / 1,142

光と影の中で

しおりを挟む
「光と影の中で」

日向清美は、たまたま見かけたSNSの広告に心を奪われた。派手なデザインと信じられないほどの高額なリターンが約束されているその広告は、彼女の不安定な生活を一変させるチャンスのように思えた。これまで何度も転職を繰り返し、家計は常に赤字。そんな中で、彼女は「投資で成功したい」という一縷の望みを抱いていた。

その広告には、わずか1万円の投資で数ヶ月後には何倍にも増えると書かれていた。「これが最後のチャンスかもしれない」と彼女は思い、勇気を出してそのサイトに登録した。サイトにアクセスし、必要な情報を入力すると、親切なサポートチームから連絡が来た。

「投資はすぐに利益が上がりますよ」との言葉に、彼女の不安は次第に期待に変わっていった。数日後、清美はさらに追加投資を決意し、預けた資金は次第に増えていくはずだと信じた。彼女は投資の成果を待ちながら、つかの間の希望に胸を膨らませていた。

しかし、時間が経つにつれて、清美の期待は徐々に不安に変わっていった。問い合わせのメールは返事がなく、サイトにログインしようとしても、突然アクセスできなくなってしまった。何度も電話をかけるも、サポートセンターは応答せず、彼女の心は恐怖と焦りに支配されるようになった。

数週間後、彼女はついに警察に相談する決断を下した。そこで警察から告げられたのは、彼女が騙されていたという事実だった。警察庁のまとめによると、SNS型投資詐欺の被害額が2024年1月から6月までに506億3千万円に達したという。清美はその数字を聞き、心が重くなるのを感じた。自分もその一部であったのかと、彼女は深い絶望に包まれていた。

彼女の手に残ったのは、騙されたという事実だけではなく、周囲への謝罪と、自らの無力さに対する悔恨の念だった。親しい友人や家族に、その事実を伝えることはできなかった。彼女は自分を責め続け、涙を流す日々が続いた。

そんなある日、清美は図書館で出会ったある年配の女性、田村陽子さんに声をかけられる。陽子さんは彼女の苦境に共感し、自身も過去に詐欺にあった経験を持っていた。

「大変だったでしょうね」と陽子さんは優しく語りかけた。「私も過去に似たような経験があって、あなたの気持ちがよくわかります。でも、こうした経験を乗り越えることで、もっと強く、もっと賢くなれるんです。」

陽子さんの言葉に清美は、少しずつ心が軽くなっていくのを感じた。彼女は過去の自分に感謝することはできないが、今後の自分がどう生きるべきかを見つめ直す機会を得た。陽子さんのサポートを受けながら、彼女は少しずつ前に進む決意を固めた。

日々の生活は依然として厳しいが、清美は新たな目標を見つけることで自信を取り戻していった。彼女は同じような経験をしている人たちと連絡を取り、情報を共有する活動を始めた。そして、SNS型投資詐欺に対する警戒を呼びかける啓発活動にも参加するようになった。

「私が失ったものは取り戻せないけれど、これからの人々には同じような悲しみを味わってほしくない。」清美は心の中で決意を新たにし、周囲の人々と共に詐欺被害を防ぐための活動に取り組んでいった。

清美の人生は、SNS型投資詐欺によって大きく変わったが、その経験が彼女を強くし、他者に対しても手を差し伸べる力を与えてくれた。彼女は再び希望を見つけ、暗闇の中で光を探し続ける日々を送っていた。









しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...