お金がない

「脳みそを盗む男」続編

「脳みそを盗む男」続編

藤岡直人が遺体から脳しょうを盗み続けた動機は、ただ単に母を救うという名目ではなかった。それは、彼自身の無力感と、貧困に苦しむ日常から逃れたいという深い欲望に根ざしていた。幼少期からの貧しい暮らしが、彼の心にじわじわと暗い影を落としていた。母の病に対する無力さ、そして自分の限界を感じる度、藤岡は自分が何かを成し遂げられることを必死に探していた。

初めは母を救うために脳しょうを集めていたが、次第にそれは「人々が求めるもの」を提供するという快感に変わっていった。遺体に手を加えるという禁忌を犯すことで、彼はかつて感じていた無力感を少しずつ埋めていく。まるで、脳しょうを盗むことで、何か偉業を成し遂げているかのように錯覚し、心の中で自分を正当化していた。

社会の反応

事件が明るみに出ると、地域社会全体が大きな衝撃に包まれた。地元新聞やラジオは、こぞって藤岡の行為を非難した。遺族たちは怒りと悲しみに打ちひしがれ、火葬場がそんな暗黒の場所であったことに対する嫌悪感は、瞬く間に広まった。藤岡の名は一夜にして悪名高き存在となり、彼の家族もまた、世間からの厳しい非難にさらされた。

「亡くなった家族の脳を勝手に取られるなんて、許されるはずがない！」 「火葬場は神聖な場所だ。それを冒涜するなんて、考えられない！」

街の人々は怒りの声を上げ、政府や警察に厳しい処罰を求めた。火葬場の職員全員が監視の下で働かされ、事件が全国的に報じられたことで、他の地域の火葬場でも同様の事件が発覚した。日本中が藤岡たちの行為を「モラルの欠如」として非難し、火葬場業界全体が信頼を失う結果となった。

贖罪

藤岡は裁判で罪を認め、重い刑を受けることになった。彼は一度、すべてを隠し通すかどうか迷ったが、母のことを思うと嘘をつき続けることができなかった。藤岡は全ての行為が「母を救いたい」という思いから始まったと主張したが、その言葉に同情する者はほとんどいなかった。

「たとえ親のためでも、人として超えてはいけない一線がある。」

法廷では彼の動機について議論が交わされ、彼が何年にもわたり500体もの遺体を損壊してきた事実に、裁判官もまた深く嘆いた。藤岡は法の裁きを受けることで、表面的な贖罪を果たすことはできたが、彼の心の中には一生癒えることのない傷が残った。

刑務所に入ってからも、藤岡は毎晩、脳しょうを盗んだ遺体たちの顔が夢に出てくるようになった。彼はどれだけの人々に取り返しのつかない傷を与えてしまったのか、日々その重さに押しつぶされていく。

藤岡は母を亡くした後も罪の意識に苛まれ、彼の贖罪の旅は終わることがなかった。遺族の心の傷はもちろんのこと、彼自身が自分の行いをどう受け止めるのか、その後の人生はただ黙々と罪の重さを背負い続ける道だった。

出所後、彼は人知れず火葬場から遠く離れた小さな村に移り住んだ。過去を隠してひっそりと暮らす藤岡は、ある日、病に倒れ、誰にも看取られることなく亡くなった。彼の死が報じられることはなく、葬儀は簡素に行われ、かつての火葬場で火にかけられた。遺族がいなかった藤岡の遺体は、今度は何も盗まれることなく、静かに灰と化した。

それは、彼自身の贖罪でもあった。