お金がない

春秋花壇

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脳みそを盗む男

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「脳みそを盗む男」

1931年の秋、三重県鳥羽の火葬場で、ひとりの若き職員が静かに仕事を終え、火葬炉の前に佇んでいた。彼の名前は藤岡直人。火葬場の中はどこか薄暗く、冷たい風が吹き抜けると、ひときわ不気味な静寂が漂った。藤岡の額には冷たい汗が浮かんでいた。

彼が行っていたのは、火葬の合間に遺体から脳しょうを取り出すという秘密の仕事だった。人々の目には見えないが、この火葬場では藤岡の手により、500体もの遺体が損壊されていたのだ。

それは三年前、肺病に苦しむ母のために始まった。地元の薬屋が「人間の脳しょうが肺病に効く」と囁いた時、彼は藁にもすがる思いで信じた。しかし、それは迷信に過ぎなかった。母の病は良くならず、ただ藤岡自身が罪に手を染める口実を与えられただけだった。

藤岡は次第に、脳しょうを他の者にも売るようになった。金は生活を潤し、母を養う資金にもなった。しかし、彼の心の中では、罪の意識が日々膨れ上がっていった。

その夜もまた、藤岡はある遺体から脳しょうを取り出していた。手際よく作業を進めながらも、彼の胸は締めつけられるような痛みで満ちていた。500体目となる遺体に手を加えた瞬間、彼は急に手を止めた。

「もうやめよう…」藤岡は誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。

その時、突然、扉が開き、上司の田島が入ってきた。彼は藤岡の手元を見て、厳しい顔をした。

「藤岡、お前…まだやっているのか」

田島はすべてを知っていたが、これまで黙認してきた。しかし、彼の表情には以前のような冷酷さはなかった。

「もう十分だろう。これ以上、お前も俺も破滅するだけだ」

藤岡は俯いたまま、力なく頷いた。

その翌日、火葬場は突然の捜査を受けた。藤岡と田島は共に逮捕され、500体もの遺体を損壊した罪で裁かれることとなった。

裁判所では、藤岡が犯した罪の重さが明らかにされ、多くの人々が悲しみと怒りに満ちた顔で彼を見つめた。しかし、彼の母だけが涙を流しながら、小さな声で呟いていた。

「私のために、こんなことをさせてしまった…」

藤岡の顔には悔恨の色が浮かんでいたが、彼はもう戻ることのできない道を歩んでいた。

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