お金がない

輝く未来の影

「輝く未来の影」

仙台市に住む50代の男性、鈴木一郎は、静かな日常を送っていた。毎日、仕事と家との往復だけで、特に大きな変化もない。そんな彼が気晴らしに始めたのが、SNSのインスタグラムだった。写真や動画を見ていると、時折、見知らぬ人からのメッセージが届くことがあった。

ある日、彼に一通のメッセージが届いた。送り主は、外国籍の女性で「エレナ」という名前だった。彼女は叔母が投資会社を経営しており、その叔母から学んだ投資の知識を持っているという。最初は軽い挨拶から始まったが、次第に親しくなるにつれて、彼女はある話を切り出した。

「私たちの投資方法は、常に100パーセントの利益を約束できるものです。もし興味があれば教えますが、絶対に損はしません。」

一郎はこれを聞き、一瞬心が揺れた。彼の中には、長年貯めてきた貯金があったが、それを増やす方法を考えたことはなかった。だが、100パーセントの利益という言葉に魅了された。

「そんなことが本当に可能なのか？」と一郎はエレナに問いかけた。

「もちろん。私もこの方法で大きな利益を得ています。叔母の会社の実績は確かです。すぐにでも始められますよ。」

一郎は慎重に考えた。彼はこれまで大きな投資をしたことがなかったが、この機会が最後のチャンスかもしれないという思いが頭をよぎった。彼はエレナの指示に従い、ネット上の取引サイトに口座を開設し、暗号資産を使った投資を始めることにした。

最初の数週間、一郎は小額の取引を試みた。驚いたことに、送られてきた取引状況を示す画像では、わずか1か月で数十万円の利益が上がっているように見えた。その数字が表示されるたびに、一郎の胸は高鳴った。

「これは本物だ…」そう確信し、一郎はさらに大きな額を投資する決意を固めた。

7月に入ると、一郎は親戚や友人からも資金を借りて、暗号資産の取引を続けた。彼の頭の中には、「このまま行けば、早期に仕事を辞めて悠々自適な生活が送れる」という夢が膨らんでいった。

しかし、その夢はある日突然、悪夢へと変わった。

「今度の利益分を引き出そう」と一郎が思い、エレナに連絡を取ろうとしたが、彼女からの返事はなかった。何度もメッセージを送っても既読にはならず、取引サイトもログインできなくなっていた。

「まさか…」不安が胸をよぎり、彼はすぐに警察に相談した。警察は話を聞くと、「これは詐欺だ」と告げた。頭が真っ白になった一郎は、詐欺師たちの巧妙な手口に完全にだまされていたことを理解するまでに時間がかかった。

警察の調査によれば、この手口はSNSを通じて人々をだまし、暗号資産を利用してその資金を引き出せないようにするという、典型的な詐欺手法だった。鈴木一郎の6300万円分の暗号資産は、もう戻ってこないと告げられた。

その夜、一郎は自宅で一人、暗くなったリビングに座っていた。手には、彼が失った全てを象徴する投資関連の資料が握られていた。数か月前まで、彼の頭の中には夢と希望があふれていた。しかし今、その全てが虚無感に変わっていた。

「なぜ、あんな話を信じてしまったのか…」何度も自問自答するが、答えは出ない。

エレナとのやりとりは、彼にとって現実的なものであり、希望を感じさせるものだった。しかし、それが全て偽りの上に成り立っていたことに、今さらながら愕然とした。SNSの世界は、顔も見えない他人が簡単に近づいてくる。そして、簡単にその距離を縮め、心に入り込む。それが、詐欺の恐ろしさだと痛感した。

警察からの報告書が届いた翌日、一郎は決意を固めた。彼は自分の失敗を他の人々に知らせなければならないと感じたのだ。詐欺の被害を防ぐために、地域の防犯活動に参加し、SNSを使った詐欺の危険性を訴えることにした。

「確実に儲かるなんて話は存在しない。ましてや、顔の見えない他人からの甘い話は、すべて疑ってかかるべきだ。」

彼はその言葉を、全ての集会や講演で繰り返し伝えた。自分の失敗を無駄にしないためにも、これからは他の人々が同じ過ちを犯さないようにと、強く願いながら。

未来は誰にも約束されていないが、過去から学ぶことで、少しでも安全な道を歩むことができる。鈴木一郎のような被害者が、もう二度と現れないことを願いながら、彼は防犯活動を続けていくのだった。