お金がない

春秋花壇

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静かな防衛

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「静かな防衛」

島根県の小さな町、大田市では、9月の涼しい風が吹き始めていた。65歳を超えた山田由美子は、新聞で防犯電話機の助成金制度についての小さな記事を目にした。近所の友人が以前、詐欺に遭ったという話を聞いてから、固定電話に出るたびに心がざわつくようになっていた。

「最近、変な電話が多いわね…」と、ついこぼしてしまうことも増えた。

その日の夕方、娘の美智子が訪ねてきた。美智子は都会で働いており、なかなか帰ってこられないが、由美子のことを常に気にかけている。二人は台所でお茶を飲みながら、軽い雑談をしていたが、由美子の口から自然と詐欺の話が出た。

「最近、知らない番号からよく電話がかかってくるのよ。お友達の田中さんもそれで騙されてね。何か対策をしないと、私も同じ目に遭うんじゃないかって不安で…」

美智子は黙って聞いていたが、ふと新聞の記事を思い出した。「お母さん、防犯電話機の助成金が出るらしいよ。詐欺対策になる電話機を買うのに、県が補助してくれるって聞いたけど、申し込んでみようか?」

由美子は少し驚いた顔をして、「そんなのあるの? 知らなかったわ」とつぶやいた。

翌日、二人は大田市の防犯協会を訪ねた。受付にいた職員が丁寧に対応し、助成金制度の詳細を説明してくれた。

「防犯電話機は、電話がかかってきた時に自動で録音を始める機能があるんです。それに、相手に録音していることを伝える警告も出るので、詐欺師が電話を切ることも多いんですよ。65歳以上の方がいるご家庭なら、申請すれば補助金が出ます。これで少しでも安心できるといいですね」

美智子はすぐに代理申請をすることに決め、必要な書類とレシートを提出する準備を進めた。数週間後、防犯電話機が届き、由美子はそれを自宅の電話に接続した。電話が鳴るたびに心配していた彼女だったが、新しい電話機の存在は、まるで家を守る見えない壁ができたかのように感じられた。

「これで少し安心できるわね」と、由美子は笑顔で娘に感謝の気持ちを伝えた。

数か月が過ぎ、冬の寒さが訪れる頃、由美子の電話が鳴った。知らない番号だったが、彼女は電話を取ることにした。すると、電話の向こうから、息子を装う若い男性の声が響いた。

「お母さん、俺だよ、今急にお金が必要なんだ…」

一瞬、由美子の心は揺れたが、次の瞬間、電話機が自動で録音を開始し、「この通話は録音されています」というメッセージが流れた。電話の向こうの男性の声が一瞬詰まり、やがて切れた。

由美子は電話を置き、深いため息をついた。もしこの電話機がなければ、どうなっていただろう。彼女は、ほんの少しの油断が命取りになる可能性を感じた。

その日の夕方、美智子に電話をかけ、今日の出来事を話した。

「やっぱり、防犯電話機を導入してよかったね。お母さんも、これからは安心できるよ」と、美智子は言葉をかけた。

「本当にそうね」と、由美子は電話越しに笑みを浮かべた。

防犯電話機が導入されたその後も、島根県内の防犯協会と県防犯連合会は、詐欺被害を防ぐために積極的に働き続けた。高齢者たちが安心して暮らせる日常を取り戻すために、彼らは少しずつ、その安全の輪を広げていった。

由美子のような一人暮らしの高齢者が増える中、詐欺被害は後を絶たない。しかし、防犯電話機が導入されたことで、詐欺師たちはその手口を変えざるを得なくなり、県内では被害件数が減少していったという。

安心は、小さな一歩から生まれる。それを知った由美子は、これからも娘と共に穏やかな日々を過ごすことを心に誓った。









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