お金がない

虚構の利得

虚構の利得

SNSで知り合った相手から「投資増やすとよりもうかる」　養父の69歳男性、200万円詐欺被害　兵庫県養父市の自営業男性（６９）が１３日、「投資名目で約２００万円をだまし取られた」と県警南但馬署に届け出た。同署が詐欺事件として調べている。

　同署によると、男性は今年１月に交流サイト（ＳＮＳ）で知り合った相手から、投資を持ちかけられ、８月２日～９月１０日までに同市の金融機関のＡＴＭで、相手の指定口座に７回にわたって計２００万円を振り込んだという。

　最初に１０万円を入金した後、利益分として２万円が振り込まれた。「投資を増やすとよりもうかる」などと勧められ、その後も入金を続けてしまったという。2000文字小説
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「虚構の利得」
兵庫県養父市で自営業を営む山下正雄は、69歳という年齢を迎えても、日々の仕事に追われる毎日を過ごしていた。彼は若い頃から働きづめで、気がつけば老後の準備がほとんどできていなかった。そんな彼にとって、SNSは一時の憩いの場だった。孤独感を紛らわせ、他人とのつながりを感じることができる場所。それが、新たな問題の始まりになるとは思いもしなかった。

今年の1月、SNS上で親しげにメッセージを送ってくる人物と知り合った。その人物は自己紹介も親しみやすく、投資の話を切り出す前から、山下の生活の愚痴に耳を傾けてくれた。彼が語る言葉には、どこか安心感があった。そしてある日、「もっと楽にお金を増やせる方法がある」と持ちかけられたのだ。

山下は最初、少しの不安を抱えながらも、10万円を相手の指定した口座に振り込んだ。すると数日後、指定口座に12万円が振り込まれていた。わずか数日で2万円の利益だ。山下は驚きと同時に、希望が胸に広がるのを感じた。こんなに簡単にお金が増えるのか。これなら、自分の老後も安泰だ。

「投資を増やせば、さらに利益が大きくなりますよ」

その言葉に導かれるまま、山下は何度も何度もATMの前に立ち続けた。200万円を超える金額を振り込むまで、相手の指示に従った。毎回、相手からの励ましのメッセージが届き、山下の心を揺さぶった。

しかし、8月2日から9月10日まで、振り込むたびに連絡が途絶えがちになり、最後には音信不通となった。山下は困惑し、SNSのメッセージを何度も確認するが、相手からの返信はない。初めての入金後に得た利益のような振り込みは、その後一度もなかった。

焦燥と不安に駆られた山下は、ついに現実を受け入れざるを得なくなった。彼は県警南但馬署に駆け込み、「投資名目で約200万円をだまし取られた」と告白した。その日の夜、山下は一人で薄暗い部屋に座り込み、振り込んだ金額と、振り返ることのなかった信頼の重さを思い返していた。

「なぜ、こんなにも簡単に騙されてしまったのだろうか」

山下は、ふと窓の外を見やった。暗い夜空に浮かぶ月は、まるで彼の心のように静かで冷たい。しかし、その静寂の中に、ほんの一筋の光が射しているようにも見えた。それは、自分の過ちを受け止め、もう一度立ち上がるための希望の光なのかもしれない。

彼は深い溜め息をつきながらも、もう一度立ち上がる決意を固めた。騙されて失った200万円よりも大きなものを得るために、自分の人生を再び取り戻すのだと。静かな部屋の中で、山下の心には確かな決意の灯がともり始めていた。