お金がない

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
625 / 965

沖縄のコメをめぐる旅

しおりを挟む
「沖縄のコメをめぐる旅」

令和6年の秋、全国的なコメの在庫不足が続き、都市部では米が手に入りにくい状況が広がっていた。東京在住の中川大樹(なかがわ だいき)とその妻、遥香(はるか)は、小学生の娘と共に沖縄旅行を楽しんでいた。しかし、旅先でのんびり過ごすはずが、ニュースで「令和の米騒動」が大きく報じられ、気が休まらない。

「米がないと、朝ご飯が大変なんだよなぁ」と大樹はつぶやく。遥香はスマホを片手に、各地の状況をチェックしていた。「東京では本当に米が売ってないんだって。帰ったらどうしよう…」不安な表情を見せる妻を見て、大樹も考え込む。

そんな中、宿泊先の近くにある大型スーパーに立ち寄った際、信じられない光景が目に飛び込んできた。米の棚には10キロの大袋が山積みにされ、何の不足感も見られない。「沖縄ではまだ米がたくさんあるんだ…」大樹はそうつぶやき、周りを見渡した。他の観光客も次々と米を買い求め、カートに詰め込んでいる姿が目立つ。

「これ、買って帰ろうか」と大樹は迷いもなく言った。遥香は少し驚いた顔をして、「でも、持って帰るの大変じゃない?」と反論した。しかし、ここで買わなければ東京に帰ってからの苦労が目に見えている。大樹はしっかりと10キロの袋をカートに載せた。

レジに並ぶと、周りの客も同じように大袋の米をカートに積んでいる。聞けば、米を県外に送るために買っている人が多いらしい。「実家に送るんです。東京で米がないって聞いて…」と話す女性の声が聞こえた。まるで米が貴重品のようだと、大樹は少し滑稽に感じながらも、その光景を真剣に見つめた。

大樹がホテルに戻ると、さっそくパソコンで調べ始めた。「沖縄から米を発送する方法…」と検索をかける。様々な配送業者のサービスがヒットし、その中の一つを選んで申し込んだ。送料は高めだが、家族の食卓のためなら仕方がない。大樹は米の袋を見ながら、何か安心感を得ていた。

翌日、家族で観光地を巡る途中でも、観光客が米を買っている姿を目にした。旅行のはずが、どこか物資の争奪戦のような気分になる。遥香がふと、「これってなんか戦時中みたいじゃない?」と言った言葉が印象的だった。「みんな生きるために必死だよね…」と大樹は思わず答えた。戦争ではないが、現代の危機はまた別の形で人々を試しているのかもしれない。

帰りの飛行機で、大樹は小さな違和感を感じていた。観光の楽しさよりも、米の確保が優先されてしまった今回の旅行。こんな風に家族が生きるために奔走することが、まるで自分の人生そのもののように感じられたからだ。大樹は窓の外に広がる青い空と海を見つめながら、家族のために何ができるのかを考えていた。

東京に戻った大樹たちは、沖縄から送られてきた米を受け取った。10キロの袋が届いたとき、子供たちは目を輝かせて喜んでいた。「これでまたご飯が食べられるね!」と無邪気に言う娘の姿に、大樹は胸が熱くなった。日常の当たり前が失われかけた時、人はそれがどれほど大切かを思い知るのだ。

「ありがとう、パパ」と遥香が微笑み、大樹も「どういたしまして」と返した。米の不足が引き起こしたこの一連の出来事は、大樹たち家族にとって忘れられない教訓となった。物資が不足することの恐怖、そしてそれを乗り越えるための知恵と行動力。何より、家族の絆を確かめ合う機会でもあったのだ。

それからしばらくして、新米の流通が進み、東京のスーパーにも少しずつ米が戻り始めた。世間では「もう少しで米が普通に買えるようになる」という声が聞かれた。大樹はそのニュースを見ながら、家族と一緒に食卓を囲む日々のありがたさを、さらに強く感じていた。

「米があるって、本当にありがたいことなんだな」

大樹は家族を見つめながらそうつぶやき、ほっとした表情でご飯を口に運んだ。令和の米騒動は収束しつつあるが、大樹たちの心には、家族の絆と共にその記憶が刻まれていた。そして、沖縄の空の下で見たあの光景は、家族が力を合わせることの大切さを再確認させてくれたのだ。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...