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春秋花壇

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令和の米騒動

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「令和の米騒動」

令和6年の秋、異常気象と世界的な供給不足が重なり、日本全土は未曾有の米不足に見舞われた。夏の猛暑に加え、台風が何度も直撃し、米の生産量は例年の半分以下に激減。政府は急遽対策を打ち出したが、各地のスーパーでは米がすぐに売り切れる事態が続出していた。人々は「令和の米騒動」と呼び始め、米を求めて奔走する日々が始まった。

裕美(ゆみ)は、都内のマンションに住む2児の母だ。夫の健二(けんじ)は平日は朝から晩まで働き詰めで、家のことはほとんど裕美に任されている。子供たちはまだ小学生で、学校から帰ると必ず「お腹すいた!今日のご飯は何?」と駆け寄ってくる。しかし、ここ数日、裕美はスーパーの棚に米が並んでいないのを見て、不安を感じていた。

「どうしよう…本当にどこにも売ってない。」

裕美はその日も近所のスーパーを何軒も回ったが、どこも空っぽの棚ばかりだ。カートを押しながらため息をつくと、同じように米を探している主婦たちの姿が目に入る。皆が焦っているのがわかる。米は日本人の主食であり、日々の生活に欠かせないものだ。裕美も家族のために、どうしても米を手に入れなければならなかった。

「次の入荷はいつなんですか?」と店員に尋ねる声が聞こえた。しかし店員も困った顔をして「未定です。入荷があってもすぐに売り切れてしまうので…」と答えるだけだ。

裕美は仕方なく、麺類やパンなど他の主食で代用することを考えたが、子供たちは白ご飯が大好きで、特に朝食にご飯と味噌汁を食べるのが日課になっていた。代用品を提案するたびに、「ご飯じゃないの?」とがっかりされるのが辛かった。

帰宅後、裕美は台所の棚を開け、残っている米の量を確認した。もうあと数日分しかない。これが無くなれば、家族にご飯を出せなくなると思うと、胸が締め付けられるようだった。

翌朝、裕美は子供たちを送り出すとすぐに家を出て、さらに遠くのスーパーまで足を運んだ。ネットの掲示板で「〇〇スーパーで米の入荷があるらしい」との噂を見つけたからだ。しかし、そこにたどり着くとすでに長蛇の列ができており、店内は混乱していた。誰もが少しでも多くの米を手に入れようと躍起になっていた。

「一世帯一袋までです!」

店員の声が響く。列に並んでいた裕美は、なんとか米を一袋手に入れることができたが、それは普段の半額サイズだった。これではすぐになくなってしまう。周囲では「もっと買えないのか」「家族が多いのにこれじゃ足りない」など、不満の声が上がっている。

裕美は米をカートに入れたまま、考え込んだ。いっそのこと、今ある米を半分にして、他の家族と分け合うべきなのだろうか。しかし、自分の家族のことを思うと、その勇気は出てこない。

帰宅してから、裕美は米を小さなタッパーに分けて保存した。少しでも長持ちさせるためだ。夕飯の時間、子供たちには「今日は少しだけご飯だよ」と言い聞かせた。幸い、子供たちはそれほど文句を言わず、おかずを多めに食べてくれた。

その夜、ニュースでは全国的な米不足の状況を報じていた。農家のインタビューでは「このままでは米作りが続けられないかもしれない」という切実な声が響いていた。裕美はこれが一時的な問題ではないのかもしれないと、改めて実感した。

数週間後、政府からの支援が始まり、徐々に米の流通が回復し始めた。だが、その間の生活は簡単ではなかった。裕美は、家族が何を本当に必要としているのか、日々の食事がどれほど大切かを改めて感じることになった。

ある日、裕美が最後の米を使い切る頃、近所のスーパーにまた米が並び始めた。裕美はその光景に胸が熱くなった。日常に戻ることのありがたさを、これほど強く感じたことはなかった。

家に帰り、子供たちと一緒に炊きたてのご飯を囲んだ。久しぶりの白ご飯に、子供たちは目を輝かせて食べている。その姿を見て、裕美は心からほっとした。

「やっぱりご飯って、おいしいね。」

裕美はそう言って、炊きたてのご飯を口に運んだ。これからも米のありがたさを忘れず、日々の食事を大切にしていこうと心に誓った。その光景は、家族の絆をさらに強くするものだった。

令和の米騒動は、裕美の家族にとっても貴重な教訓となった。日常がどれほど大切で、食卓を囲むことが家族の幸福にどれだけ影響するか。その大切さを再認識した裕美は、今まで以上に家庭を大切にし、家族の笑顔を守り続けていくのだった。










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