お金がない

春秋花壇

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札幌の夜

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札幌の夜

須藤早貴は、20歳の時、札幌の歓楽街すすきのでキャバクラ嬢として働いていた。都会のネオンがきらめく夜、彼女は夢と現実の狭間で生きていた。美しい顔立ちと魅惑的な笑顔で、彼女は多くの客を虜にしていたが、その中でも特に熱心だったのが、61歳の元銀行員、M氏だった。

M氏は、長年勤めた銀行を退職し、親族の遺産を受け取ったばかりだった。退職金と遺産によって突然手にした大金は、彼に自由と同時に虚しさも与えた。家に帰っても待っているのは冷たい妻だけ。そんな時、彼の心を温めたのが、キャバクラ嬢の早貴だった。

「早貴ちゃんの笑顔があれば、もう何もいらないんだ」と、M氏は毎晩のように店に通い、彼女に会うためだけに大金を使った。早貴はM氏に対して時折優しく微笑みかけ、時には涙を見せることもあった。その涙の理由を聞けば、「カットモデルの髪や皮膚を傷つけてしまったの。訴えられたらどうしよう…」と嘆く。ある時は「留学に行くためのお金が足りないの」と訴えた。

M氏はそんな彼女の話をすべて信じ、財布のひもを緩めた。「俺が守ってやるよ、早貴ちゃんのためなら何だってするから」と、彼は数百万、数千万を彼女に渡した。早貴はその金で新しい服を買い、高級な食事を楽しみ、タワーマンションに引っ越した。M氏は彼女のためにそのタワーマンションの家賃を払い、生活費も負担した。彼は早貴が本当に自分を必要としていると信じていたのだ。

だが、その関係が長く続くことはなかった。M氏の妻が彼の行動に気づき、激しく叱責したのだ。「あなた、何を考えているの?家庭を顧みず、こんな若い女にうつつを抜かして!」と。彼は言い訳もできず、早貴との連絡を一旦絶った。

しかし、M氏の心は簡単に早貴を手放すことができなかった。「きっと、彼女は帰ってくる。留学から戻れば、お金を返してくれるに違いない」と、彼は自分を慰めるようにして信じ続けた。その間にも、彼は何度も銀行の口座残高を確認し、財産が減り続けるのを見て心を痛めていた。

ある日、M氏は思い切って早貴に連絡を取った。「帰国したら、話を聞かせてほしい」と、何度もメッセージを送り続けたが、彼女からの返事はなかった。彼は彼女の話が嘘だったのではないかと疑念を抱き始めた。だが、それでも彼女を信じたいと思う自分がいた。

そして、ある日、彼は新聞で早貴が「紀州のドン・ファン」の元妻であり、彼の死について疑惑の目が向けられているという記事を目にする。M氏の心は千々に乱れた。あの優しかった早貴が、そんな事件に関わっているとは信じがたかった。しかし、同時に彼女の本性に気づけなかった自分を悔いた。

裁判の席で、早貴はM氏の方をまっすぐ見つめた。「私が詐欺師なら、向こうは性犯罪者だ」と彼女は言い放った。その言葉にM氏は驚愕し、信じていたものが一瞬で崩れ去るのを感じた。彼女は自分の都合のいいように言葉を操り、相手を翻弄するのが得意だったのだ。

M氏は静かに目を閉じ、過去の日々を振り返った。あの瞬間、あの笑顔、あの涙はすべて虚構だったのか?彼は自分がただの駒でしかなかったことに気づき、心の底から後悔した。だが、今更何も取り戻せないことも、彼は理解していた。

判決が下り、法廷を去る際、M氏は一度だけ早貴の方を振り返った。彼女は無表情のまま立っていた。その姿は、彼がかつて愛した女性とはまるで別人のように見えた。

この物語は、純粋な心を持つ人物が、愛と信頼を裏切られることで人生の苦い現実を知る姿を描いています。M氏の視点を通して、早貴の冷徹さと自己中心的な行動が浮き彫りになり、彼の切ない感情が伝わる作品となっています。










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