お金がない

春秋花壇

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ワンクリックの罠

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ワンクリックの罠

真奈美は、最近仕事のストレスで少し疲れていた。帰宅しても気分が晴れず、スマホを片手にSNSやネットサーフィンで時間を潰す日々が続いていた。そんなある日、何気なく訪れたサイトで「あなたの運勢を無料で診断!」という派手な広告が目に留まった。運勢診断や性格診断といった、ちょっとした暇つぶしが好きな真奈美は、深く考えずにその広告をクリックしてしまった。

ページが開くと、カラフルなデザインと軽快な音楽が流れ出し、少しおもちゃのような感じのする画面だった。「姓名と生年月日を入力してください」と書かれた欄に、自分の情報を入力してしまったのも、ほんの出来心だった。
「まあ、これくらいなら大丈夫でしょう」と軽く考えていたが、診断結果が表示されることはなく、代わりに突然、警告画面が現れた。

「ご利用ありがとうございます。あなたの登録が完了しました。料金は5万円です。」
さらに画面には、真奈美のスマホに関する詳細情報やIPアドレスまで表示されており、見覚えのある住所も表示されていた。それを見た瞬間、真奈美の心臓は一気に凍りついた。

「えっ、何これ?どういうこと?」
突然のことに動揺し、手が震えた。画面の表示はさらに続く。「このページを閉じると、支払い請求を行います。至急、支払い手続きを行ってください。」という脅迫めいた文言に、真奈美は一層混乱した。しかも、画面下部には「ここをクリックして支払う」というボタンが大きく表示されていた。

「まさか、これがワンクリック詐欺…?」
真奈美はその言葉を思い出したが、具体的なことはよく知らなかった。ただ、「ワンクリック詐欺」という言葉をニュースで聞いたことがあった程度で、その詳細な仕組みや対策について考えたことはなかった。今、目の前で自分がまさにその罠にはまりかけているのだと実感し、恐怖が押し寄せてきた。

慌てて画面を閉じようとするが、次々とポップアップが現れて、まるで逃げ場を塞がれたような気分だった。「支払わなければ個人情報が漏洩します」「法的手続きに移行します」といった脅迫めいたメッセージに、追い詰められていく感覚が強まる。

「こんなの、どうすればいいの?」
真奈美はすぐに友人の絵里に電話をかけた。絵里は以前、インターネットセキュリティの会社で働いていた経験があり、ネット関連のトラブルに詳しい。電話を取った絵里の声を聞くと、真奈美は少しだけ安心した。

「もしもし、絵里?助けて!なんか変なサイトに引っかかっちゃって…!」
状況を説明すると、絵里は冷静にアドバイスをくれた。「まず落ち着いて。ワンクリック詐欺はただの脅しだから、お金を払う必要はないよ。画面を無視して閉じるか、最悪の場合はスマホを再起動すればいいの。絶対に相手の要求には応じちゃだめ。連絡もしないこと。」
絵里の言葉を聞いて、真奈美は少しだけ落ち着きを取り戻した。再起動することで、しつこい画面は消え、ようやく通常のホーム画面に戻った。しかし、その恐怖の余韻はしばらく残り、真奈美の心はざわついたままだった。

翌日、真奈美は会社でも誰にも言えずにいたが、ランチタイムに何気なく同僚たちにその話をすると、意外にも同じような経験をしたことがあるという声が次々と上がった。「私もやられたことある!」「あれって本当に焦るよね」と共感の声が広がる中で、真奈美は少しだけ気持ちが軽くなった。みんなも同じように知らないうちに危険に巻き込まれていたのだ。

「だから、ネットで何かをクリックするときは気をつけないといけないんだよね。特に何でもかんでも無料って言われると、つい信用しちゃうけど…」
ある同僚がそう言うと、皆は頷き合った。真奈美もまた、これからはもっと慎重になろうと心に決めた。

その後、真奈美はインターネットでワンクリック詐欺について詳しく調べた。詐欺の手口や被害に遭わないための対策、そしてどんな対応が必要かなどを学んだ。特に「絶対に支払いに応じないこと」「画面の表示に動揺せず、冷静に対処すること」といった基本的な対策をしっかりと頭に入れた。

真奈美は友人や家族にもその情報をシェアし、自分と同じように無防備な状態でインターネットを使わないようにと呼びかけた。そして、何よりも「自分だけじゃない」ということが、真奈美の心を少しだけ軽くしてくれた。

「ネットって便利だけど、本当に怖いこともあるんだね」
そんな気持ちを抱えつつも、真奈美は新しい一歩を踏み出した。インターネットの海を渡るためには、しっかりとした羅針盤が必要なのだと学んだのだ。これからは、もっと慎重に、そして知識を持ってその海を渡っていこうと決意したのだった。










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