お金がない

お金と心の価値

お金と心の価値

「お金のことや買いたい物のことばかり考えているだろうか。」この言葉が、木村浩司の心に引っかかっていた。浩司は大学を卒業したばかりの若者で、どこか理想と現実のギャップに悩んでいた。父親が経営する中小企業の手伝いをしながら、将来の夢を追い求めているものの、現実の厳しさに直面しつつあった。

浩司は家計簿をつける習慣があり、そこには一日の出費が詳細に記されている。生活費や食費、趣味に使うお金、そして時には予想外の出費もあった。彼の頭の中では、常にお金の流れが巡っており、それが彼の生活に大きな影響を与えていた。

「お金を借りた時、どうせ返さなくてもあの人なら困らないだろうと思って、なかなか返さないことがあるだろうか。」この問いもまた浩司の心をつかんでいた。ある友人から少額のお金を借りたときのことが、彼の中で未だに引っかかっていた。返すつもりでいたが、何となくそのままになってしまっていた。返すべきタイミングを逃し、後回しにしてしまった自分に対して、どこか罪悪感を感じていた。

「お金があることで優越感に浸ったり、逆にけちになったりしていないだろうか。」この質問もまた浩司の心にひっかかる。大学時代、裕福な友人たちと過ごす時間が多かった。彼らと過ごすときは、どうしても自分と比較してしまうことが多かった。自分がいかに貧しいのか、いかにお金が足りないのかと、心の中で思い悩んでいた。

「たくさんお金を持っている兄弟姉妹のことを、お金を愛している人と決め付けていないだろうか。」これもまた浩司の悩みの一つだった。自分の兄弟姉妹の中には、ビジネスで成功している者もいる。彼らが成功するのは当然のことで、その結果として多くのお金を得ている。しかし、それを見て「お金を愛しているからだ」と簡単に決めつけてしまう自分に、どこか違和感を感じていた。

「裕福な人とは仲良くして、お金のない人にはそっけない態度を取っていないだろうか。」この問いが浮かぶたびに、浩司は自分の行動を振り返ってみた。確かに、自分の中に存在するお金に対する偏見や先入観が、他人との関係に影響を与えていることを認識していた。裕福な人と接する際は無意識に礼儀を尽くす一方、経済的に厳しい人たちにはどこか冷たい態度を取ってしまう自分がいた。

ある日、浩司はふと気づいた。自分がこうして悩んでいるのは、単にお金に振り回されているからだけではない。お金に対する自分の価値観や態度が、他人との関係や自分の心の中に影響を与えているのだと実感した。

それからというもの、浩司は意識的にお金との関係を見直すように努めた。お金が全てではないと心から理解し、借りたお金はしっかりと返すようにし、裕福な人たちともフラットな関係を保ち、貧しい人々に対しても尊敬と理解をもって接するように心掛けた。お金のない人々と過ごす時間を大切にし、心の豊かさを育む努力を始めた。

また、兄弟姉妹との関係も見直し、お金の多さで人を評価するのではなく、彼らの努力や人柄を評価することにした。経済的な成功を通じて得られるものは大きいが、それが全てではないと認識することが、浩司にとって重要な気づきとなった。

「お金のことや買いたい物のことばかり考えているだろうか。」この問いは、浩司にとって自己反省のきっかけとなり、彼の心の中にある価値観を再構築するための貴重な教訓となった。彼はお金との関係を深く見つめ直し、それによって本当の豊かさを見出すことができたのだった。

完