お金がない

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
541 / 1,142

見えない脅威

しおりを挟む
「見えない脅威」

静かな住宅街の一角に、古びた家が立っていた。家主の田村夫婦は、年齢とともに体力が衰え、今は孫たちと一緒に過ごす時間を大切にしている。夫の健司は退職後、趣味のガーデニングに熱中し、妻の恵子は編み物をしながら、のんびりとした毎日を送っていた。家の外には、よく手入れされた花壇があり、季節ごとにさまざまな花が咲き誇っている。

しかし、2022年の2月、そんな平穏な日常が一変する出来事が起こった。

その日は、健司がいつものように朝早くから庭の手入れをしていた。恵子は家の中でお茶を淹れながら、テレビのニュースを流していた。ニュースキャスターが、空き巣の被害総額が約25億4,168万円に達し、侵入窃盗が再び増加しているという報告を伝えていた。

「また増えてきたのね…」恵子はつぶやいた。「昔よりは減ったけど、まだまだ油断できないわ。」

その言葉を耳にした健司は、気にも留めずに庭の草むしりを続けていた。彼の心の中には、そんなニュースがもたらす危機感よりも、目の前の仕事に集中することが優先されていた。

日が落ちると、田村夫婦は一緒に夕食を取り、早めに寝る準備をした。夜の静寂が訪れ、家の中は心地よい静けさに包まれていた。しかし、その静けさの中に、知らぬ間に忍び寄る危険が潜んでいた。

夜中の2時、何も知らない田村夫婦は深い眠りに落ちていた。だが、その時間帯に、一台の車が静かに彼らの家の前に停まった。車から降りたのは、プロの空き巣団だった。彼らは慎重に、また経験豊富に行動していた。

「これがターゲットだ。」リーダーの男が手持ちの地図を指しながら、仲間たちに指示を出す。「出発地点からここまで、完璧な計画だ。」

空き巣団は、家の周囲をしっかりと確認し、セキュリティや監視カメラがないことを確認した。リーダーは、暗い中に慎重に歩き、家の裏口に設置された鍵穴にピッキングツールを差し込み、わずか数分で扉を開けた。

家の中に忍び込んだ空き巣団は、真っ暗な廊下を静かに歩き、目的の部屋へと向かった。彼らは家の内部を知り尽くしていた。家族の生活習慣、価値のありそうな物品、隠し場所…すべてを把握していた。

一方、田村夫婦は、普段とは違う何かの気配を感じることもなく、静かに眠り続けていた。やがて、空き巣団は無事に宝石類や現金、貴金属類を手に入れ、家を後にした。彼らは、物音ひとつ立てずに出て行き、夜の闇に溶け込んでいった。

翌朝、健司と恵子は、普段通りに起きて朝食の準備を始めた。しかし、家の中に何か違和感を覚えた。棚の中にあったはずの貴金属や宝石がなくなっていることに気づいたのだ。

「え、これ…どうして?」恵子は驚きの声を上げた。健司も驚きと困惑が入り混じった表情を浮かべた。

すぐに警察に通報し、捜査が始まった。警察の調査によって、空き巣団が巧妙な手口で家に侵入したことが明らかになった。監視カメラの映像や近隣住民の証言が集められ、次第に真相が明らかになっていったが、犯人たちは逃げ切ってしまった。

田村夫婦は、突然の盗難に驚き、心に深い傷を負った。長い間積み重ねてきた思い出や大切な品々が一瞬で奪われ、生活の安寧が崩れ去ってしまった。しかし、彼らは互いに支え合い、生活の再建に向けて一歩ずつ前進していく決意を固めた。

数週間後、田村夫婦は新たにセキュリティシステムを導入し、防犯対策を強化した。彼らは、自分たちの生活を守るために、今まで以上に意識を高めることが必要だと痛感した。空き巣の被害は、その後も続いたが、田村夫婦は新たな希望を持ち、静かな生活を取り戻すために努力し続けた。

「またいつか、あの物たちが戻ってくることはないかもしれない。でも、私たちは前を向いて生きていくしかない。」恵子はそう語り、健司もその言葉に頷いた。

そして、田村夫婦の家は再び平穏を取り戻し、周囲との繋がりを深める中で、新たな幸福を見つけることができた。それは、彼らが見えない脅威に立ち向かい、自らの手で未来を切り開いた証でもあった。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...