お金がない

春秋花壇

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心の贈り物

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「心の贈り物」

咲子は、デスクの上に置かれた美しい包みを見つめていた。それは親友の美咲から贈られた誕生日プレゼントだった。リボンがかけられたその箱には、きっと美咲の気持ちが詰まっているに違いない。咲子は包みを手に取り、リボンをそっと解いた。

中には、美しいデザインの手帳が入っていた。咲子が以前、ふと「新しい手帳が欲しい」とつぶやいたことを、美咲は覚えていたのだ。手帳のカバーは深い紺色で、しっかりとした作りだった。咲子はその手帳を手に取り、ページをめくる。そこで目にしたのは、最初のページに書かれた美咲の手書きのメッセージだった。

「咲子、いつも頑張っているあなたへ。この手帳で、たくさんの素敵な思い出を記していってね。美咲」

その一文が、咲子の胸をじんわりと温かくした。美咲の優しさと気遣いが、この小さな手帳の中に詰まっていることが伝わってきた。

しかし、その感動の後に、咲子の心に不安と焦りが押し寄せた。美咲の誕生日はもうすぐだ。それなのに、今の自分には美咲にプレゼントを買う余裕がない。最近、咲子は仕事の減少や生活費の増加で、余裕が全くなかったのだ。家賃や食費、その他の生活費で精一杯の状態だった。

「どうしよう…」咲子はため息をつき、手帳をそっと閉じた。

彼女はベッドに腰を下ろし、窓の外を見つめた。窓の外には、夜の静寂が広がっていた。咲子は深く息を吸い、頭の中で考えを巡らせた。美咲のために何かしたいのに、何もできないという事実が、彼女の心を苦しめていた。

「お金がないからって、何もしないなんて…それじゃ、彼女に申し訳ない…」

その夜、咲子は何度も考えを巡らせたが、結局解決策は見つからなかった。次の日も、その次の日も、彼女の頭にはその思いが離れなかった。

ある日、咲子はふと思いついた。「お金はないけれど、私にできることがあるかもしれない…」その考えが頭をよぎり、彼女は小さく頷いた。

「そうだ、何かを買うことだけがプレゼントじゃない。心を込めて何かを作ることだって、立派な贈り物になるはずだわ。」

咲子は決意を固めた。彼女は美咲のために手作りのアルバムを作ることにした。二人の思い出をたっぷりと詰め込んだ、特別なアルバムだ。

彼女はすぐにアルバムを作るための準備を始めた。家にある材料を使って、写真を選び、思い出の一言を添えながらページを作り上げていく。二人が初めて出会った日のこと、学生時代の笑い合った瞬間、旅行先でのエピソード、泣きながら励まし合った夜…そのすべてが、彼女の心の中で鮮明に蘇った。

作業を進めるうちに、咲子の心はどんどんと軽くなっていった。思い出を振り返ることで、彼女は改めて美咲との絆の深さを感じ、そしてそれが何よりも大切な贈り物であることを確信した。

そして、ついに美咲の誕生日がやってきた。咲子は心を込めて作り上げたアルバムを手に、ドキドキしながら美咲の家を訪れた。彼女がインターホンを押すと、すぐに美咲が出てきた。

「咲子、来てくれてありがとう!」美咲は笑顔で迎え入れてくれた。

「美咲、お誕生日おめでとう。」咲子は少し緊張しながら、アルバムを差し出した。「これ、私からの贈り物…」

美咲はそのアルバムを受け取り、パラパラとページをめくり始めた。しばらくして、美咲の目に涙が浮かんできた。

「咲子…これ、すごく素敵…本当にありがとう。」

その瞬間、咲子の胸に溢れるものがあった。プレゼントを買うことはできなかったが、自分の心を込めた贈り物が、美咲の心に届いたことが分かったからだ。

「美咲、あなたがいつも私を支えてくれているから、こうして私は生きていけるの。本当にありがとう。」

二人はそのまま抱き合い、涙を流しながら笑った。プレゼントの値段ではなく、そこに込められた心が、何よりも価値があることを、二人は改めて実感した。

その夜、咲子は帰り道で、満月を見上げながら心の中でそっと思った。「プレゼントは、物ではなく、心のこもった贈り物が一番大切なんだな。」

咲子の足取りは軽やかだった。彼女は未来への不安を抱えながらも、心の中には美咲との強い絆が確かに根付いていることを感じていた。

そして、咲子は笑顔を浮かべながら、夜空を見上げた。「ありがとう、美咲。あなたのおかげで、私はまた一歩前に進むことができたよ。」








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