お金がない

「SNS型投資詐欺」2024年1〜6月の被害額が506億3千万円

「SNS型投資詐欺」2024年1～6月の被害額が506億3千万円

晴れた午後、田中和也はリビングのソファに深く腰掛け、スマートフォンを手に取った。何気なくSNSをスクロールしていると、突然、彼の目に飛び込んできた広告があった。「たった10万円で毎月の収入が倍増！」と鮮やかな文字が踊り、豪華な生活を送る成功者たちの画像が次々と表示された。田中はその瞬間、心を奪われた。

和也は40代半ばのサラリーマンで、東京の中小企業で働いていた。毎日の通勤、残業、そして家庭との両立に疲れ果て、何か新しい挑戦をしたいと思っていた矢先のことだった。SNSの偽広告は、彼の心の隙間にぴたりと嵌った。

「これで俺も少しは楽になるかもしれない」と、和也は胸の中で小さな希望を抱いた。広告をクリックすると、そこには「初心者でも安心！簡単に始められる投資プログラム」と書かれた説明文が続いていた。説明は非常に分かりやすく、さらに「今なら特別キャンペーン中」との文字が彼の背中を押した。

和也は慎重な性格だったが、そのときは「リスクも少なそうだし、試してみる価値はあるかもしれない」と思い、サイトに登録してみることにした。ほどなくして、和也の電話に一人の男性から連絡が入った。「こんにちは、田中さん。私が担当の鈴木です。まずは少額から始めてみませんか？」という親しみやすい口調での誘いに、和也は自然と話に引き込まれた。

「どうしても不安なら、まずは10万円だけで始めてみてください。これで最初の利益を実感してから、もう少し増やしていけばいいんです」と鈴木は続けた。和也は心の中で「これで失敗したとしても、大きな損失にはならないだろう」と考え、10万円を振り込むことを決めた。

数日後、和也の携帯に再び鈴木からの連絡があった。「おめでとうございます、田中さん！あなたの投資は順調に増えています。次のステップに進みましょう」と鈴木は興奮した声で伝えた。和也の口座にアクセスすると、確かに投資額が増えていることが確認できた。それを見た和也は「これは本当にうまくいっているのかもしれない」と、さらに30万円を追加投資した。

和也の生活は少しずつ変わり始めた。毎朝、目が覚めるとまず口座をチェックし、増えた金額を見るたびに胸が高鳴った。妻や子供たちにはこのことを秘密にしていたが、「もう少し利益が出たら、家族旅行に行けるかもしれない」と密かに夢を膨らませていた。

しかし、数週間後、和也の投資口座は突然アクセス不能になった。慌てて鈴木に連絡を取ろうとしたが、電話は繋がらず、メールの返信もない。不安が募る中、和也は他の投資者たちの声をSNSで検索し、ようやくこの投資が詐欺であることを知るに至った。

彼が信じた夢は、瞬く間に崩れ去った。和也は50万円を失い、それ以上に自分の愚かさを責める気持ちが強かった。「どうしてこんなことに引っかかったのか」と自問自答する日々が続いた。ニュースでは、2024年の上半期だけで「SNS型投資詐欺」の被害額が506億3千万円に上るという報道が流れていた。和也はその数字を目にして、自分だけではないと分かっていても、心の中は晴れなかった。

ある夜、和也は家族に全てを打ち明けることを決意した。夕食の後、リビングに家族を集め、静かに話を切り出した。「実は、ある投資にお金を入れて、失敗してしまったんだ」と和也が言うと、妻の美香は驚いた表情を隠せなかった。

「いくらなの？」と美香が尋ねると、和也は「50万円だ」と答えた。美香はしばらく沈黙していたが、やがて深いため息をついた。「私たちも一緒に考えていけば良かったのに」と美香は穏やかに言った。「でも、これからは私たち家族で乗り越えていこう」と美香の言葉に、和也は初めて涙がこぼれた。

家族の絆は、失敗からも学びを得ることができる。和也は家族の支えを感じながら、もう一度立ち上がる決意を固めた。失ったものは大きいが、和也は大切なものを取り戻すために、地道に働き続けることを誓った。そして、もう二度と、目先の誘惑に負けることはないだろう。

この物語は、SNSを通じた投資詐欺に巻き込まれた一人のサラリーマンの経験を描いています。詐欺に引っかかり、家族に打ち明けることで、和也が家族との絆を再確認し、新たな人生を歩み出す様子が描かれています。