お金がない

春秋花壇

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一杯の袋ラーメン

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一杯の袋ラーメン

大学生の夏休み、太郎と美奈子は一緒に暮らすために狭いアパートを借りた。築40年の古い建物で、家賃は安かったが、二人の貯金はほとんど底をついていた。そして、籍を入れた。今日から二人は晴れて名実ともに夫婦。

夕方、太郎はバイトから帰ってきた。疲れた顔をしているが、美奈子が笑顔で迎えた。「おかえりなさい、太郎君。」

「ただいま、美奈ちゃん。」太郎は疲れた体を引きずりながら靴を脱ぎ、狭い玄関に入った。

「今日は特別なディナーがあるのよ。」美奈子は自信満々に言った。

「特別なディナー?」太郎は興味津々に彼女の方を見た。「でも、お金がないって言ってたじゃないか。」

「大丈夫よ、ちゃんと考えてあるの。」美奈子は笑顔でキッチンに向かい、一杯の袋ラーメンを取り出した。「これが今日のご馳走よ。」

「袋ラーメン?」太郎は少し驚いた。「これが特別なディナーなの?」

「そうよ、でもただの袋ラーメンじゃないの。」美奈子は鍋にお湯を入れ、火をつけた。「心を込めて作るから、特別なの。」

太郎は美奈子の真剣な表情を見て、何も言えなくなった。彼女はいつも前向きで、どんな状況でも楽しむことを忘れない。その姿に、太郎は何度も助けられてきた。

「何か手伝うことある?」太郎は美奈子の隣に立った。

「うん、ちょっとしたトッピングをお願い。」美奈子は冷蔵庫から少しの野菜と卵を取り出した。「これを切って、卵は茹でて。」

太郎は言われた通りに作業を始めた。人参とピーマンを刻み、鍋に入れる。鮮やかなオレンジと緑、卵の黄色もとても美しい。お鍋の中ではしゃいでる。二人で協力し合いながら、簡単な料理が少しずつ形になっていく。袋ラーメンとは思えないほど、色鮮やかで美味しそうな一杯が出来上がった。

「出来た!」美奈子は嬉しそうに言った。「これで特別なディナーが完成よ。」

おどけたしぐさで七味を振る。

「確かに、すごく美味しそうだ。」太郎は感嘆の声を上げた。「ありがとう、美奈ちゃん。」

二人はラーメンをテーブルに運び、隣り合って座った。食べる前に、太郎は静かに言った。「美奈ちゃん、君と一緒にいるだけで、どんな食事も特別だよ。」

「太郎君...」美奈子は少し涙ぐんだ。「私も、君と一緒にいられるだけで、何もかもが幸せなの。」

二人は笑顔を交わし、ラーメンを一口ずつ楽しんだ。濃厚な味噌の味わいが口の中いっぱいに広がり心に染み渡る。美奈子が一口食べると、太郎も一口食べる。そしてまた、美奈子が一口。まるでリズムを合わせるかのように、二人はラーメンを分け合った。

「おいしいね。」太郎は微笑んだ。「まるで、特別なレストランの料理みたいだ。」

口の中で溶け出した食べ物の化学成分が,舌の小孔から出ている味覚の受容体を刺激します。受容体の細胞が反応し,味らいから脳に信号を送るよう神経細胞(ニューロン)を刺激します。

「うん、ほんとにおいしい。」美奈子も微笑んだ。「二人で食べると、何でもおいしく感じるんだね。」

夜が更けるにつれ、二人は他愛のない話を続けた。将来の夢や、今感じていること、そして互いへの思いを語り合った。アパートの外は静かで、窓からは夏の涼しい風が入ってくる。軒下につるした風鈴が涼やかな音色を添えている。

「これからも、こんな風に一緒に過ごしていこうね。」太郎は静かに言った。

「うん、ずっと一緒に。」美奈子は優しく頷いた。

一杯の袋ラーメンが、二人にとっては最高のご馳走となり、その夜は二人の心をさらに近づけた。お金がなくても、愛と共感があれば、どんな困難も乗り越えられる。そんなことを実感しながら、二人は手を繋ぎ、夜の静けさの中で幸せをかみしめた。

「味覚は五感の王国の女王です」










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