お金がない

やっと払えた町会費

やっと払えた町会費

懐が寂しい日々

梅雨の終わりを迎えた7月のある日、田中和夫は小さなアパートの一室で一人暮らしをしていた。和夫は、長年勤めた会社を退職し、今は定年後の生活を送っていたが、年金だけでは生活が苦しく、日々のやりくりに頭を悩ませていた。

ある日、アパートの玄関のチャイムが鳴った。和夫はゆっくりと立ち上がり、ドアを開けた。そこには町内会の集金係である佐藤さんが立っていた。

「田中さん、こんにちは。今月の町内会費、1200円の集金に参りました。」佐藤さんは笑顔で言った。

和夫は一瞬戸惑い、財布を取り出して中を覗き込んだ。しかし、中には数枚の小銭しか入っていなかった。和夫は申し訳なさそうに頭を下げ、「すみません、今ちょっと手元にお金がなくて…。後日またお支払いします。」と答えた。

佐藤さんは気を使って、「わかりました。お困りのようでしたら、無理をしないでくださいね。また来週にでも伺いますので。」と言い残し、去っていった。

和夫はため息をつき、再び部屋に戻った。彼の心には重い石がのしかかっているようだった。今月の年金もほとんどが家賃や光熱費に消えてしまい、手元に残るのはわずかな額だけだった。生活費を切り詰める毎日に、和夫の心は少しずつ疲弊していた。

数日後、再び佐藤さんが集金に訪れた。和夫はまだお金が準備できておらず、再度謝罪することになった。「申し訳ありません、まだお金が用意できていません…。もう少しお待ちいただけますか？」と和夫は言った。

佐藤さんは微笑みながら、「大丈夫ですよ、田中さん。無理をしないでくださいね。お金が準備できた時で結構ですから。」と言って帰っていった。

和夫はその夜、布団に入っても眠れなかった。生活の困窮と、周囲の人々に迷惑をかけているという思いが彼の心を重くしていた。だが、そんな和夫にも希望の光が差し込む日が訪れた。

17日の希望
7月17日、和夫は朝早く起きて郵便受けを確認した。そこには、銀行からの通知が入っていた。封を開けると、先月申請した福祉金が無事に入金されていることが記されていた。10,000円が和夫の口座に振り込まれていたのだ。

和夫はその通知を見て、胸の中に温かいものが広がるのを感じた。「これで、ようやく町内会費を払うことができる…。」と和夫は心の中でつぶやいた。

その日、和夫は銀行に行き、入金を確認した。10,000円が振り込まれていることに感謝し、必要な金額を引き出してから、町内会の集金係である佐藤さんの家を訪れた。

玄関のチャイムを押すと、佐藤さんが出てきた。「田中さん、いらっしゃい。どうされましたか？」と佐藤さんは尋ねた。

和夫は財布から1200円を取り出し、「お待たせしました。今月の町内会費をお支払いに来ました。」と手渡した。

佐藤さんは驚いたように目を丸くしながらも、すぐに微笑んで受け取った。「ありがとうございます、田中さん。無理をさせてしまって申し訳ありませんでした。でも、これで安心ですね。」と言った。

和夫は安心したように微笑み返し、「おかげさまで、少し落ち着くことができました。本当にありがとうございます。」と感謝の意を述べた。

その日の夜、和夫は久しぶりに心穏やかな気持ちで布団に入った。町内会費を支払えたことで、少しだけ生活に余裕ができたように感じた。そして、彼の心には新たな決意が芽生えていた。「これからも、自分の力で生活を支えていこう。少しずつでも、前に進んでいこう。」と。

新たな一歩
和夫はその後、地域のシルバー人材センターに登録し、できる範囲での仕事を始めた。庭の手入れや清掃など、体に負担の少ない仕事をこなすことで、少しずつ収入を増やしていった。毎日の生活はまだ厳しいが、和夫は新たな目標を持って前向きに取り組んでいた。

また、町内会の活動にも積極的に参加するようになり、地域の人々との交流を深めることで、心の支えを得ることができた。和夫の笑顔は次第に増え、彼の周りには温かい人々の輪が広がっていった。

ある日、町内会の集まりで佐藤さんが和夫に声をかけた。「田中さん、最近とても元気そうですね。皆さんもあなたの頑張りに感心していますよ。」

和夫は照れくさそうに笑い、「ありがとうございます。皆さんのおかげで、少しずつですが前に進むことができています。」と答えた。

こうして、和夫は新たな一歩を踏み出し、困難な状況を乗り越える力を見つけることができた。彼の心には、再び希望の光が差し込んでいた。