お金がない

春秋花壇

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すいか食べたい

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すいか食べたい

夏の真っ盛り、太陽がじりじりと地面を焼く中、裕太は公園のベンチに座っていた。彼の視線の先には、小さな売店の前に並ぶ大きなすいか。青い皮に黒い縞模様が美しく、見るからに瑞々しい。

「食べたいなあ…」

裕太は小さくつぶやき、ポケットを探る。そこには小銭が数枚、わずかなお金しか入っていない。すいかを買うにはとても足りなかった。夏の暑さが一層彼の心を重くする。

裕太は大学生で、夏休みの間にアルバイトを探していたが、なかなか見つからなかった。両親は裕太が自立することを望んでおり、彼もそれを理解していた。しかし、この状況では自立どころか、すいか一つ買うこともできない。

「何か方法はないかな…」

裕太は頭を抱えながら、売店のすいかを見つめ続けた。その時、近くに住むおばあさんが、犬の散歩をしているのが目に入った。彼女はいつも優しい笑顔で話しかけてくれる人だった。

「こんにちは、裕太くん。暑いねえ。」

おばあさんが声をかけてきた。裕太は少し恥ずかしそうに微笑んで返事をした。

「こんにちは、おばあさん。ほんとに暑いですね。」

おばあさんは裕太の顔を見て、何かを察したように首をかしげた。

「何か困っているのかい?」

裕太は一瞬迷ったが、正直に話すことにした。

「実は、すいかが食べたいんです。でも、お金がなくて…」

おばあさんは優しく微笑んだ。

「それなら、うちに来なさい。ちょうどすいかを買ってきたところだから、一緒に食べよう。」

裕太は驚きと感謝の気持ちでいっぱいになった。おばあさんの家は、すぐ近くの小さな一軒家だった。庭には色とりどりの花が咲き、涼しげな木陰が広がっていた。

家に入ると、涼しい風が迎えてくれた。おばあさんは台所に向かい、大きなすいかを冷蔵庫から取り出した。

「これ、冷やしておいたから美味しいよ。」

おばあさんは手際よくすいかを切り分け、裕太に大きな一切れを差し出した。裕太はその一切れを手に取り、かぶりついた。

「甘い!」

口いっぱいに広がる甘さと瑞々しさに、裕太は感動した。こんなに美味しいすいかを食べたのは、いつ以来だろう。思わず涙がこぼれそうになった。

「ありがとう、おばあさん。すごく美味しいです。」

おばあさんは微笑んで、裕太に言った。

「夏にはやっぱりすいかだね。それに、誰かと一緒に食べると、もっと美味しく感じるものさ。」

裕太は頷いた。おばあさんの言う通り、誰かと一緒に食べると、食べ物の美味しさは何倍にもなる。そして、この優しさと温かさが、何よりも彼の心を満たしてくれた。

その日から、裕太はおばあさんの家によく訪れるようになった。彼は庭の手入れを手伝ったり、重い物を運んだりして、おばあさんの手助けをすることにした。おばあさんは、その代わりに美味しい料理や果物を裕太にふるまってくれた。

「裕太くん、今日はこれを食べてみて。」

おばあさんは新しいレシピに挑戦し、その度に裕太に試食をお願いした。裕太はそのたびに、心から感謝の気持ちを感じた。おばあさんとの交流は、彼にとって大切な時間となった。

裕太は少しずつ、自分に自信を取り戻し始めた。おばあさんの優しさに触れることで、自分も誰かの役に立ちたいと思うようになった。そして、ある日、彼は決意した。

「おばあさん、僕、アルバイトを見つけました。」

おばあさんは喜んで、裕太を褒めた。

「それは素晴らしいね。どんな仕事をするの?」

「近くのカフェで働くことにしました。おばあさんが教えてくれた料理の知識も活かせるかもしれません。」

おばあさんは裕太を抱きしめた。

「頑張ってね、裕太くん。あなたならきっと大丈夫。」

裕太はおばあさんの温かい言葉に励まされ、カフェでの仕事を始めた。仕事は大変だったが、毎日が充実していた。彼は少しずつ貯金をし、自分の力で生活を成り立たせることができるようになった。

夏の終わりが近づく頃、裕太は一つの計画を立てた。

「おばあさん、今日は僕がお礼をしたいんです。」

裕太は大きなすいかを買い、おばあさんの家に持って行った。おばあさんは驚き、そして喜んだ。

「裕太くん、これはあなたが?」

裕太は頷き、笑顔で言った。

「おばあさんのおかげで、僕はここまで来られました。今日は感謝の気持ちを込めて、一緒にすいかを食べましょう。」

二人は庭の木陰に座り、すいかを分け合った。おばあさんの笑顔と裕太の笑顔が重なり、夏の夕暮れの中で、心温まるひとときを過ごした。

「ありがとう、裕太くん。あなたが来てくれて、本当に嬉しいよ。」

裕太は心から感謝の気持ちを伝えた。

「僕もです、おばあさん。これからもよろしくお願いします。」

夏の日差しが柔らかくなり、風が心地よく吹く中、二人の絆はさらに深まった。裕太はおばあさんとの出会いが、自分にとってどれほど大切なものかを改めて感じた。

そして、裕太は心に誓った。これからもおばあさんに恩返しをし、彼女のように優しさを持って人々に接していこうと。夏の終わりとともに、新たな決意を胸に、裕太は歩み続けた。
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