お金がない

春秋花壇

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罠に落ちた影

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罠に落ちた影
陽子はいつも自分をしっかり者だと思っていた。新聞を隅から隅まで読み、ニュース番組を欠かさずチェックし、最新の詐欺手口についてもよく知っていた。そんな彼女にとって、特殊詐欺に引っかかるのは情弱な人間だけだというのが信条だった。

その日、陽子は普段通りに仕事を終え、自宅に帰った。夕食の準備をしている最中、固定電話が鳴り響いた。見知らぬ番号からの電話だったが、重要な連絡かもしれないと直感し、彼女はすぐに応答した。

「もしもし、こちらは〇〇警察署の佐藤と申します。お忙しいところ失礼いたしますが、お時間よろしいでしょうか?」

その瞬間、陽子の背筋がピンと伸びた。警察からの電話なんて滅多にない。何か重大なことが起きたのではないかと、不安が頭をよぎった。

「はい、どうぞ。」

「実は、あなたの銀行口座が犯罪に利用されている可能性がありまして、確認のために口座番号と暗証番号を教えていただきたいのですが。」

陽子の警戒心が一気に高まった。これは怪しい。しかし、佐藤という警察官の声は実に信憑性があり、彼の説明も理路整然としていた。陽子は慎重に答えた。

「すみませんが、これは本当に警察からの電話でしょうか?」

「疑念を抱かれるのは当然です。ですので、こちらの署の番号をお知らせしますので、確認のためにお電話いただけますか?」

彼女は与えられた番号に電話をかけ、確かに〇〇警察署であることを確認した。そこで再び佐藤からの電話を受け、彼に指示された通りに口座情報を提供してしまった。

その後、陽子は何事もなかったかのように日常を過ごしていた。しかし数日後、銀行から連絡があり、彼女の口座から大金が引き出されていることを知った。驚愕し、すぐに警察に連絡を取ったが、既に手遅れだった。陽子はまさか自分が詐欺に遭うとは夢にも思わなかった。

ショックを受けた陽子は、自分がどれだけ無知だったかを痛感した。詐欺に遭うのは情弱な人だと決めつけていたが、それがどれだけ浅はかだったかを思い知ったのだ。彼女は警察署に出向き、事情を説明した。

「まさか、自分が引っかかるとは思いませんでした。」涙ながらに訴える陽子に、刑事は優しく答えた。

「詐欺師は巧妙です。誰もが被害に遭う可能性があります。今回の件で学んだことを、他の人にも伝えてください。」

陽子はその言葉を胸に刻み、家に帰った。彼女は家族や友人に自分の経験を話し、警戒を呼びかけた。自身の経験が誰かの助けになることを願っていた。

一方で、陽子は自分を責め続けた。詐欺に遭ったこと自体よりも、自分がいかにして簡単に騙されたのかが信じられなかった。そんな彼女を支えたのは、友人の美穂だった。

「陽子、誰だって引っかかる可能性があるの。自分を責めないで。大事なのは、これからどうするかだよ。」

美穂の言葉に少しずつ勇気づけられた陽子は、地域の防犯活動に積極的に参加するようになった。彼女は自分の経験を基に、詐欺の手口や防止策を地域の人々に伝え、同じ被害を未然に防ぐために尽力した。

ある日、地域の防犯講習会で講師として招かれた陽子は、参加者たちの前で話し始めた。

「私も皆さんと同じように、詐欺なんて自分には関係ないと思っていました。しかし、実際に被害に遭って初めて、詐欺は誰にでも起こりうるということを知りました。大事なのは、常に警戒を怠らないことです。そして、もし被害に遭ったとしても、自分を責めず、次にどう対処するかを考えることです。」

講習会が終わった後、参加者たちは陽子に感謝の言葉をかけた。その中には、かつての陽子と同じように、自分が騙されるとは思っていなかった人々も多かった。

陽子はその日、自分の経験が誰かの役に立ったことに喜びを感じた。詐欺に遭ったことで失ったものは多かったが、それ以上に得たものもあった。それは、自分の経験を通じて他人を助ける力だった。

陽子はこれからも詐欺の危険性を伝えるための活動に身を投じる決意を新たにした。彼女の経験と努力が、数えきれないほどの人々を詐欺の危険から守ってきた。

固定電話を契約している人は高齢者が多い。そのため、犯人の立場からすると、固定電話の名簿からアポ電をかければ、ターゲットである高齢者層にヒットする可能性が高いのです。陽子はその事実を改めて認識し、防犯活動においても高齢者の注意喚起を特に強化していくことを決めた。

陽子の活動はやがて地域を超え、広く認知されるようになった。彼女の経験と知識は、詐欺防止のための大きな力となっていった。陽子は自身の過ちを糧に、より多くの人々を守るために尽力し続けた。






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