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薄紅の記憶

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薄紅の記憶

コンクリートの隙間から顔を出すタンポポ。アスファルトの熱を浴びて、黄色い花弁は少しばかりしおれている。僕はしゃがみこみ、そのタンポポをじっと見つめていた。風が吹き、綿毛がふわりと空に舞い上がる。その様子を、まるで何かを追いかけるように、目で追った。かつて、僕もあのように無邪気に、何かを追いかけていたのだろうか。

ここは、かつて僕が育った街だった。高層ビルが立ち並び、昔の面影はほとんど残っていない。このタンポポが生えている場所も、昔は小さな公園だったはずだ。ブランコがあって、砂場があって、夕暮れになると近所の子どもたちが集まってきて、日が暮れるまで遊んでいた。夕焼け空の下、友達と砂場で泥だらけになって遊んだこと。ブランコに乗って、どこまでも高く飛んでいけるような気がしたこと。夕食の匂いが漂ってきて、母親に呼ばれる声が聞こえたこと。それらの記憶は、靄がかかったようにぼやけていて、鮮明には思い出せない。まるで、古い写真の色が褪せてしまったように、記憶の色も褪せてしまっている。

ふと、足元に小さな石が落ちているのに気づいた。丸みを帯びた、握りやすい大きさの石だ。僕はそれを拾い上げた。冷たく、硬い感触が、手のひらに伝わってくる。この石、どこかで見たことがある。いや、知っている。

その時、かすかな記憶が蘇った。公園の砂場で、友達のケンタと石を投げ合って遊んだ記憶だ。ケンタはいつも一番元気で、いたずらっ子だった。僕が投げた石が、ケンタの足に当たってしまい、ケンタが泣き出してしまった。僕は慌てて謝り、「大丈夫か?」と声をかけた。ケンタは鼻をすすりながら、「痛いよ…」と言った。僕はポケットからハンカチを取り出し、ケンタの足の砂を払ってやった。ケンタは少し照れくさそうに笑った。

その石は、その時僕が持っていた石にそっくりだった。もしかしたら、同じ石かもしれない。この石を握っていると、ケンタの顔、ケンタの声、ケンタの笑顔が、鮮やかに蘇ってくる。あの時、ケンタと過ごした時間は、僕にとってかけがえのないものだった。

僕は石を握りしめた。冷たく、硬い感触が、手のひらに食い込む。その感触を通して、失われた記憶が、わずかながら蘇ってくるような気がした。失われた時間、失われた友情、失われた無邪気さ。それらはすべて、この小さな石の中に、封じ込められているのかもしれない。

僕は立ち上がり、周囲を見渡した。高層ビルが夕日に照らされ、薄紅色に染まっている。その光景は、どこか懐かしく、そして切なかった。この街は変わってしまったけれど、この夕焼けの色だけは、昔と変わらない。あの頃と同じように、空は優しく、そして寂しげに、紅色に染まっている。

僕は、失われた時間と記憶を、この街の風景の中に探しているのかもしれない。かつてここにあった、大切な何かを。それは、ケンタとの友情だったり、無邪気に遊んでいた自分自身だったり、過ぎ去ってしまった、二度と戻らない時間だったりする。

夕焼けはますます濃くなり、空は深い紅色に染まっていった。ビルの窓に反射する夕日は、まるで燃えているように輝いている。僕は、その夕焼けをしばらく見つめていた。いつまでも、いつまでも。過去と現在が交錯する、不思議な時間。失われた記憶が、夕焼けの光の中で、ほんの一瞬だけ、蘇るような気がした。

やがて、あたりは暗くなり始めた。街灯が灯り始め、ビルの窓からは明かりが漏れ出す。僕は、石をポケットにしまい、歩き出した。どこへ行くのか、自分でもわからない。ただ、失われた記憶の欠片を、探し続けている。この街のどこかに、かつての自分が、ケンタが、あの頃の時間が、隠されているような気がしてならない。
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