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薬味のように、心で飾る

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薬味のように、心で飾る

茜は、ふと思い出した。舞妓をしていた頃、よその置屋で出された冷奴。それは、単なる豆腐料理ではなく、心の込もったおもてなしだった。

茜の置屋の女将は、掃除は得意でも料理は壊滅的だった。カレーの日には、芸妓さんたちと喫茶店でその味を嘆き、口直しをするのが恒例。それでも、茜は女将の心の温かさを知っていた。

対照的に、よその置屋の女将は、決して美人ではなかった。むしろ、その容貌は平凡どころか、少し風変わりだった。しかし、彼女の出す冷奴は、薬味の種類が豊富で、見た目も味も華やかだった。ネギ、大葉、茗荷、ひき肉煮、胡麻だれ、ポン酢、すだち…、まるでパレットの上の色彩のように、様々な味が調和していた。

茜はその冷奴を食べるたびに、女将の心の豊かさを感じた。美人でなくても、華やかな容姿でなくても、人は心のこもったおもてなしで人を感動させることができる。女将の冷奴は、そう教えてくれた。

茜は、女将の笑顔を思い出した。それは、決して派手な笑顔ではなく、どこか温かくて包み込むような、静かな笑顔だった。茜は思った。美しさとは、外見だけのものではない。心の奥底から湧き出る優しさや温かさが、人を美しく見せるのだ、と。

茜は、舞妓を引退した後、小さな茶屋を開いた。そこでは、女将から教わったことを実践した。客に提供する料理は、決して豪華ではない。しかし、一つ一つの食材に心を込めて調理し、彩り豊かな薬味を添える。そして、客との会話を通して、その人の心に寄り添うことを心掛ける。

ある日、常連客の老人が、茜の茶屋を訪れた。「ここの茶碗蒸しは、俺の故郷の味を思い出させてくれるんだ」と、彼は言った。茜は、その言葉に感動した。自分の料理が、誰かの心に触れることができる。それが、料理人の喜びだと、改めて感じた。

茜は、これからも自分の茶屋で、心のこもったおもてなしを続けていきたいと思っている。女将のように、美人でなくても、華やかな容姿でなくても、心の温かさを伝えることができる。茜は、そう信じていた。

(完)
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