1,659 / 1,684
ちょっと散歩してくる
しおりを挟む
「ちょっと散歩してくる。」
婚約者の彼がそう言ったのは、五年前のことだった。
その時の私は、まだ彼の言葉を文字通り受け取っていた。
「散歩って……どこへ行くの?」
問い返した私に、彼はただ微笑みながら言った。
「少し歩いてくるだけさ。」
数日後、王都に現れたドラゴンが討伐されたという報せが届いた。その討伐隊の中には、彼の名が含まれていた。
それからというもの、彼の「散歩」はたびたび繰り返された。
国境付近で横行していた盗賊団の壊滅、冒険者ギルドが対応に苦慮していた魔物の大群鎮圧、さらには王族誘拐事件の解決――。
そして、記憶に新しいのは、魔王討伐。
その時、彼は全身傷だらけで帰ってきた。鎧はぼろぼろに壊れ、顔にも疲労が滲んでいた。
それでも彼は、いつものように笑って言ったのだ。
「ただいま。」
私はその言葉に返すべき答えが見つからなかった。
彼は王国の「七英雄」の一人として、栄光を手に入れていく。
だが、彼の勲章が増えるたびに、私たちの時間は減っていった。
「ちょっと散歩してくる。」
再び聞こえたその言葉を、私はもう数えきれないほど聞いていた。
「帰ってくる気があるのかしら……。」
胸の内でそう呟きながらも、私は待ち続けた。
けれど、ある日決心した。
もう待つのはやめよう、と。
婚約破棄の書状をしたためる。
そして、その隣に、一言だけ添えた。
「ちょっと冒険してきます。」
私は手紙を残し、彼のもとを去った。
あれから三年が経つ。
冒険者ギルドに登録した私は、がむしゃらに働き、数々の魔物を討伐した。
今では最高ランクの冒険者として、名を馳せるようになった。
彼がかつて言った「散歩」という名の冒険。
それを、私も自らの足で歩むようになったのだ。
時折、彼のことを思い出す。
でも、昔のように胸が痛むことはもうない。
「もう待たなくていい。私は自由だもの。」
広がる未来に目を向けて、私は今日も冒険に向かう。
きっと、新しい物語が待っているはずだから。
婚約者の彼がそう言ったのは、五年前のことだった。
その時の私は、まだ彼の言葉を文字通り受け取っていた。
「散歩って……どこへ行くの?」
問い返した私に、彼はただ微笑みながら言った。
「少し歩いてくるだけさ。」
数日後、王都に現れたドラゴンが討伐されたという報せが届いた。その討伐隊の中には、彼の名が含まれていた。
それからというもの、彼の「散歩」はたびたび繰り返された。
国境付近で横行していた盗賊団の壊滅、冒険者ギルドが対応に苦慮していた魔物の大群鎮圧、さらには王族誘拐事件の解決――。
そして、記憶に新しいのは、魔王討伐。
その時、彼は全身傷だらけで帰ってきた。鎧はぼろぼろに壊れ、顔にも疲労が滲んでいた。
それでも彼は、いつものように笑って言ったのだ。
「ただいま。」
私はその言葉に返すべき答えが見つからなかった。
彼は王国の「七英雄」の一人として、栄光を手に入れていく。
だが、彼の勲章が増えるたびに、私たちの時間は減っていった。
「ちょっと散歩してくる。」
再び聞こえたその言葉を、私はもう数えきれないほど聞いていた。
「帰ってくる気があるのかしら……。」
胸の内でそう呟きながらも、私は待ち続けた。
けれど、ある日決心した。
もう待つのはやめよう、と。
婚約破棄の書状をしたためる。
そして、その隣に、一言だけ添えた。
「ちょっと冒険してきます。」
私は手紙を残し、彼のもとを去った。
あれから三年が経つ。
冒険者ギルドに登録した私は、がむしゃらに働き、数々の魔物を討伐した。
今では最高ランクの冒険者として、名を馳せるようになった。
彼がかつて言った「散歩」という名の冒険。
それを、私も自らの足で歩むようになったのだ。
時折、彼のことを思い出す。
でも、昔のように胸が痛むことはもうない。
「もう待たなくていい。私は自由だもの。」
広がる未来に目を向けて、私は今日も冒険に向かう。
きっと、新しい物語が待っているはずだから。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる