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春秋花壇

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あえのこと

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あえのこと

あえは、四季折々の景色を愛でることが好きだった。彼女は、東京の喧騒の中で生まれ育ったが、心の中では、都会の雑踏に埋もれることを嫌っていた。静かな場所、自然の豊かさが感じられる場所を求めて、週末には必ずどこかに出かけていた。

その日も、いつものように早朝に家を出た。まだ薄明かりの中、駅に向かって歩いていると、周りの景色が静かに広がっていた。時折、足元に落ち葉が舞い散り、秋の深まりを感じる。

あえは、普段は何も考えずに歩くことが多かったが、その日、何か特別な思いが胸に湧いてきた。それは、少し前から感じていた「変わりゆく自分」という感覚だった。周りの景色、そして人々との関わりの中で、何かが少しずつ変わっているような気がしていた。あえ自身もその変化を意識していたが、それをどう受け入れるべきか、どうしてもわからなかった。

電車に揺られている間も、その思いが頭を離れなかった。目的地は、東京の郊外にある小さな町。そこには、かつてあえがよく訪れた古い喫茶店があり、そこで過ごす時間は、彼女にとって特別なものだった。若いころ、恋人とよく訪れたその場所には、今でもどこか懐かしい雰囲気が漂っている。

到着すると、駅前の道を歩きながら、あえはその店のことを思い出していた。あの頃のことを、恋人との思い出を、そしてどこかで心が少しずつ忘れかけていた感情を。

店に到着すると、やはり変わらぬ風景が広がっていた。古びた木の扉を開けると、カウンターには店主が静かに座っていた。店内は静かで、音楽の代わりに、窓から差し込む柔らかな光が心地よく感じられた。店主は少し驚いたように微笑みながら、あえに声をかける。

「久しぶりだね。どうしてまた来たんだ?」

「あえ」と呼ばれた彼女は、少し戸惑いながらも微笑み返した。「ただ、少し懐かしくて。昔、よくここで過ごしていたんです。」

店主は頷きながら、「ああ、あの頃が懐かしいね」と言った。そして、あえがかつてよく頼んだコーヒーを淹れてくれる。ゆっくりと、時間が流れていく中で、あえは店内を見渡しながら、思い出の中に自分を沈ませていた。

その日、あえは店主と少しの間、昔話をした。しかし、その話の中で、ふと気づいたことがあった。それは、恋人との別れが、今でも心に深く刻まれていることだ。あえは、自分がそのことをどれほど引きずっていたのか、改めて認識した。あの時、どうして別れたのか、何が足りなかったのか。今でも心の奥でその答えを探し続けている自分がいた。

コーヒーを飲みながら、あえは店主に話した。「私、昔のことが忘れられなくて…ずっと引きずっているんです。」

店主は少し沈黙してから、静かに言った。「それはね、誰にでもあることだよ。だって、あの時の自分が今の自分を作ったんだから。でも、時間が経っても、その答えはきっと見つかるよ。」

あえはその言葉を聞いて、少し驚いた。店主は、あえて答えを出さずに、ただ寄り添ってくれるような言葉をかけてくれた。彼の優しさに、あえは少し心が軽くなった気がした。もしかしたら、今は答えを探す必要はなく、ただ自分を大切にすることが大事なのかもしれない、と思った。

店を出たあえは、しばらくその町を歩いてみることにした。古い町並み、静かな通り。すれ違う人々の顔が、どこか穏やかで優しい。あえは、普段の忙しい日常の中では見逃してしまうような、そんな風景に目を奪われた。

歩きながら、あえは自分自身に問いかける。「これから、どうしていきたいのか?」

その答えはまだ見つからなかったが、今はその答えを焦って探すのではなく、少しずつ自分を見つけていけばいいのだと感じていた。あえは、そう思うと心が軽くなり、どこか希望の光が差し込むような気持ちになった。

日が沈みかけた頃、あえは帰り道を歩きながら、もう一度あの喫茶店のことを思い出していた。あの店は、ただの喫茶店ではない。それは、あえが過去を受け入れ、そして新しい自分に出会うための場所だったのだ。

そしてあえは、これからの人生を自分らしく生きる決意を新たにし、再び東京へと向かって歩き出した。

終わり







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