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風に揺れる薔薇
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「風に揺れる薔薇」
紅茶のカップを戻し、エリザベスは息を吐いた。そろそろ時間だ。
王都の人気カフェで、目の前に座るミリアに微笑みかけた。
「美味しかったな、ミリア。そろそろ帰ろうか」
「はい、エリザベス様」
ミリアが会計を済ませている間、エリザベスはゆっくりと立ち上がる。彼女、エリザベス・カリスタは、カリスタ伯爵家の一人娘だ。カリスタ伯爵家は、爵位こそ伯爵に過ぎないが、父の手腕で商会をいくつも手がけ、クレメンタイン王国一の資産家となっていた。
そんな家に援助を求めてきたのがブレンディ侯爵家だ。そして、彼らは私と長男のイーサンの婚約を打診してきた。結婚を通して支援を強化しようとしたのだろう。父は私の同意を得た上で、いくつかの条件を出し、それを受け入れた。
結局、私とイーサンは十三歳で婚約を結んだ。
「ミリア、また眉間に皺を寄せて」
馬車に乗り込み、ミリアと向かい合って座ると、エリザベスは軽く指でミリアの眉間を突いた。ミリアは彼女付きの専属侍女で、年齢も同じだが、表情筋があまり働かない。だが、婚約者との交流日になると、どうしてもムッとした顔をしてしまうのだ。
イーサンは本来なら侯爵家を継ぐはずだったが、婚約後、騎士を目指すことを決めた。父の条件の一つが「自分の目指す道を見つけること」だったからだ。結果として、イーサンは近衛騎士として王家に仕官している。
「またムッとしているわね、ミリア」
「エリザベス様の気持ちを思うと、どうしても納得できません」
ミリアは少し顔を背け、唇を噛んだ。エリザベスはその気持ちを理解していた。使用人たちも、イーサンの態度を許せないでいる。しかし、エリザベスにとっては、イーサンがどうしているかなど、まったく気にすることではなかった。
「ミリア、私にとって婚約はただの家同士の取り決めよ。それに、イーサンには自分の夢を追ってほしい。だから、私は何も気にしていないわ」
「ですが、エリザベス様、婚約者が全く顔を出さないのはやはり…」
「私にとっては、逆に自由でいられる方が嬉しいの。私は自分の役割を果たしているだけよ」
そう言って、エリザベスは微笑みながら馬車を降りた。邸内に戻り、使用人たちが静かに出迎える中、エリザベスはゆっくりと歩いて自室に向かう。
途中、ふと立ち止まり、ミリアに振り返った。
「イーサンがどうしようと、私は全く気にしない。私たちはそれぞれの道を進んでいるだけだし」
エリザベスはそれが最良の選択だと思っていた。彼女の微笑みは、まるで一切の波立たない湖のように、どんな困難にも揺るがなかった。
エリザベスが自室に戻ると、静かな午後の日差しがカリスタ伯爵家の広大な庭を照らしていた。窓辺に腰掛け、彼女は外の景色をぼんやりと眺めながら思考にふける。伯爵家の名にふさわしく、敷地内には美しい庭園が広がっており、遠くには屋敷の大きな門が見える。騎士として王家に仕官したイーサンの話は、今では王都の噂のひとつに過ぎない。しかし、その噂が彼女にとっては何の意味も持たないことを、エリザベスは自分自身に強く言い聞かせていた。
だが、気持ちの中で少しの違和感が残っていることも事実だ。婚約者が、しかも家同士の約束で結びつけられた相手が、まるで関心を持たずに姿を消してしまったことに対する、無意識の寂しさ。それが、どこかで彼女を引き留めていた。彼女はそれに対して、冷静に対処しようとしていたが、心の奥底でその事実にどこか居心地の悪さを感じていた。
その思考に浸っていると、部屋の扉が静かにノックされる音が響いた。
「エリザベス様、お食事の準備が整いました」
声をかけたのは、家の使用人であるアリスだった。彼女はとても物静かで、言葉少なに何事もこなすタイプだが、エリザベスにはどこか優しげで心強く感じられる存在だった。
「ありがとう、アリス。少しだけ待ってもらえますか?」
エリザベスは微笑み、窓辺から立ち上がり、テーブルに向かって歩み寄ると、鏡の前に立って自分の姿を確認する。伯爵家の娘として、普段から髪を整え、服装をきちんと整えることは当然だった。しかし、今日はそれに少しだけ疲れが見える。心の中の小さな引っかかりが、目に見えるものにまで影響を与えているように感じた。
アリスが再び部屋に入ってきて、テーブルに並べられた料理を見て、軽く頷いた。
「エリザベス様、今日は特別な日ですから、心を込めて準備しました」
エリザベスはその言葉に静かに頷きながらも、心の中では別のことを考えていた。食事の香りや、きらめく食器の音さえも、今の彼女にはどこか遠く感じられる。それは、イーサンのことを考えるたびに感じる孤独感から来ているのだろう。
「ありがとう、アリス。いただきます」
食事を口に運ぶが、味わうというよりは、ただ無心に食べている自分に気づく。イーサンと過ごした日々の記憶が、少しずつ蘇ってくる。それは、おそらく彼との交流がないことへの反応であり、彼女がその関係にどれほどの期待を抱いていたかの証でもあった。
婚約者としての責任もあり、家同士の契約としても、彼女はイーサンに対して何かしらの感情を持っていたはずだ。しかし、イーサンが騎士として王家に仕官したことから、彼女の心には微かな冷徹さが芽生えていった。最初は、彼の夢を応援しようと思った。だが、時が経つにつれて、その冷徹さは確固たるものとなり、イーサンの姿が見えない日々が続く中で、エリザベスはそれをどう受け止めるべきかを自問自答するようになった。
食事が終わる頃、再びアリスが部屋に戻ってきた。エリザベスは椅子から立ち上がり、アリスに軽く笑いかけた。
「アリス、少し散歩してきます」
アリスは不安げに顔をしかめたが、エリザベスの強い眼差しに引き下がることにした。
「お供しますか?」
「いいえ、大丈夫です。少しだけ、一人になりたくて」
エリザベスは静かに庭へと向かった。外に出ると、涼やかな風が彼女を迎え、葉の間を抜ける音が心地よく響く。静寂の中で、彼女は少しだけ深呼吸をし、自分の心を整理しようとした。
結婚や婚約、家族の責任。それらすべてを背負ってきた彼女だが、今、自分にとって最も大切なことは何なのかを考えずにはいられなかった。イーサンと結びつけられた婚約という枷が、彼女をどこへ導くのか。もし、このまま何も変わらなければ、彼女はどうなってしまうのか。
エリザベスはその問いに対して、答えを出すことなく、ただ庭の景色を見つめていた。
エリザベスは庭を歩きながら、ふと足を止めた。庭の隅にある古い石のベンチに腰を下ろすと、目の前の薔薇の花が鮮やかな色を放っているのを見つめた。その美しさには、自然の力強さと儚さが共存しているように感じられた。時折、風に揺れる花びらが、彼女の心の奥底で眠っていた感情を呼び覚ます。
イーサンのことが頭をよぎる。騎士として名を上げ、王家に仕官した彼。しかし、それでも彼の存在は、彼女にとってはどこか遠い世界の話のように感じられるようになっていた。家の契約や名誉、責任。そういったものに縛られた彼の選択は、最初は理解できたが、今となってはその決断が彼女の心にどんな影響を与えていたのかを感じることができた。
彼が自分にとって本当に大切な存在なのか、それともただの義務としての婚約者なのか、確信が持てない。
「何を考えているんですか?」
その声に驚き、エリザベスは振り返った。そこには、いつものようにミリアが立っていた。彼女はエリザベスがひとりでいることを心配していたのだろう。ミリアの顔には、いつものように無表情でありながらも、どこか心配そうな表情が浮かんでいる。
「特に、何も。少し風に当たりたかっただけ」
エリザベスは微笑みながら答えたが、その目にはどこか寂しさがにじんでいるのを、ミリアは見逃さなかった。
「お許しをいただけるなら、私もここでお付き合いします」
ミリアが静かに横に座ると、エリザベスは無言で頷いた。ふたりの間に言葉はなく、しばらくの間、ただ風の音と庭の静けさだけが広がっていた。だが、その静寂の中で、エリザベスは少しずつ自分の気持ちを整理していった。
「ミリア、私、ずっと悩んでいるの」
突然、エリザベスが口を開いた。彼女の声は少し震えていたが、決して弱くはなかった。
「イーサンのこと、私はどう感じているのか、わからなくなってしまった。最初は、彼との婚約が家のためにも大切だと思っていた。でも、今はその意味がわからない。彼は私のことをどう思っているのかもわからないし、私もどうしていいのか……」
ミリアは黙ってエリザベスの話を聞いていた。彼女の表情に変化はなかったが、目の奥には明らかな共感が浮かんでいるのをエリザベスは感じ取った。
「エリザベス様、あなたの心が何を求めているのかを、無理に答えを出す必要はありません。時間が解決するかもしれませんし、もしかしたら、気づくことがあるかもしれません」
ミリアの言葉は、エリザベスにとって予想外に優しく、温かかった。それはまるで、彼女が本当にエリザベスを理解しているかのような、深い信頼の表れだった。
「ありがとう、ミリア。でも、私はもう少し、考えたい。イーサンのことも、私自身のことも……」
エリザベスは再び庭の景色を見つめた。薔薇の花が風に揺れるたびに、その花びらが散り、その一瞬一瞬が永遠に続くような錯覚を覚えた。彼女の中にある答えは、まだ見つかっていない。しかし、この静かな時間の中で少しずつ、その答えが形を成し始めるのではないかという予感が、心のどこかに広がっていた。
「エリザベス様、どんな答えが出ても、私はあなたを支えますから」
ミリアの言葉が、エリザベスの心に深く響いた。彼女がどれほど自分を思い、心配してくれているのか、その思いが痛いほど伝わってきた。エリザベスはゆっくりと目を閉じ、深呼吸をした。そして、心の中でひとつ決心を固めた。
答えは急がない。ただ、自分の気持ちを見つめ、信じること。その時間を持つことが大切だと、彼女は感じていた。
「ありがとう、ミリア。あなたがいてくれて本当に良かった」
静かな午後のひととき。エリザベスは再び自分を取り戻し、これから何を選ぶべきかを、ゆっくりと探し始めた。
紅茶のカップを戻し、エリザベスは息を吐いた。そろそろ時間だ。
王都の人気カフェで、目の前に座るミリアに微笑みかけた。
「美味しかったな、ミリア。そろそろ帰ろうか」
「はい、エリザベス様」
ミリアが会計を済ませている間、エリザベスはゆっくりと立ち上がる。彼女、エリザベス・カリスタは、カリスタ伯爵家の一人娘だ。カリスタ伯爵家は、爵位こそ伯爵に過ぎないが、父の手腕で商会をいくつも手がけ、クレメンタイン王国一の資産家となっていた。
そんな家に援助を求めてきたのがブレンディ侯爵家だ。そして、彼らは私と長男のイーサンの婚約を打診してきた。結婚を通して支援を強化しようとしたのだろう。父は私の同意を得た上で、いくつかの条件を出し、それを受け入れた。
結局、私とイーサンは十三歳で婚約を結んだ。
「ミリア、また眉間に皺を寄せて」
馬車に乗り込み、ミリアと向かい合って座ると、エリザベスは軽く指でミリアの眉間を突いた。ミリアは彼女付きの専属侍女で、年齢も同じだが、表情筋があまり働かない。だが、婚約者との交流日になると、どうしてもムッとした顔をしてしまうのだ。
イーサンは本来なら侯爵家を継ぐはずだったが、婚約後、騎士を目指すことを決めた。父の条件の一つが「自分の目指す道を見つけること」だったからだ。結果として、イーサンは近衛騎士として王家に仕官している。
「またムッとしているわね、ミリア」
「エリザベス様の気持ちを思うと、どうしても納得できません」
ミリアは少し顔を背け、唇を噛んだ。エリザベスはその気持ちを理解していた。使用人たちも、イーサンの態度を許せないでいる。しかし、エリザベスにとっては、イーサンがどうしているかなど、まったく気にすることではなかった。
「ミリア、私にとって婚約はただの家同士の取り決めよ。それに、イーサンには自分の夢を追ってほしい。だから、私は何も気にしていないわ」
「ですが、エリザベス様、婚約者が全く顔を出さないのはやはり…」
「私にとっては、逆に自由でいられる方が嬉しいの。私は自分の役割を果たしているだけよ」
そう言って、エリザベスは微笑みながら馬車を降りた。邸内に戻り、使用人たちが静かに出迎える中、エリザベスはゆっくりと歩いて自室に向かう。
途中、ふと立ち止まり、ミリアに振り返った。
「イーサンがどうしようと、私は全く気にしない。私たちはそれぞれの道を進んでいるだけだし」
エリザベスはそれが最良の選択だと思っていた。彼女の微笑みは、まるで一切の波立たない湖のように、どんな困難にも揺るがなかった。
エリザベスが自室に戻ると、静かな午後の日差しがカリスタ伯爵家の広大な庭を照らしていた。窓辺に腰掛け、彼女は外の景色をぼんやりと眺めながら思考にふける。伯爵家の名にふさわしく、敷地内には美しい庭園が広がっており、遠くには屋敷の大きな門が見える。騎士として王家に仕官したイーサンの話は、今では王都の噂のひとつに過ぎない。しかし、その噂が彼女にとっては何の意味も持たないことを、エリザベスは自分自身に強く言い聞かせていた。
だが、気持ちの中で少しの違和感が残っていることも事実だ。婚約者が、しかも家同士の約束で結びつけられた相手が、まるで関心を持たずに姿を消してしまったことに対する、無意識の寂しさ。それが、どこかで彼女を引き留めていた。彼女はそれに対して、冷静に対処しようとしていたが、心の奥底でその事実にどこか居心地の悪さを感じていた。
その思考に浸っていると、部屋の扉が静かにノックされる音が響いた。
「エリザベス様、お食事の準備が整いました」
声をかけたのは、家の使用人であるアリスだった。彼女はとても物静かで、言葉少なに何事もこなすタイプだが、エリザベスにはどこか優しげで心強く感じられる存在だった。
「ありがとう、アリス。少しだけ待ってもらえますか?」
エリザベスは微笑み、窓辺から立ち上がり、テーブルに向かって歩み寄ると、鏡の前に立って自分の姿を確認する。伯爵家の娘として、普段から髪を整え、服装をきちんと整えることは当然だった。しかし、今日はそれに少しだけ疲れが見える。心の中の小さな引っかかりが、目に見えるものにまで影響を与えているように感じた。
アリスが再び部屋に入ってきて、テーブルに並べられた料理を見て、軽く頷いた。
「エリザベス様、今日は特別な日ですから、心を込めて準備しました」
エリザベスはその言葉に静かに頷きながらも、心の中では別のことを考えていた。食事の香りや、きらめく食器の音さえも、今の彼女にはどこか遠く感じられる。それは、イーサンのことを考えるたびに感じる孤独感から来ているのだろう。
「ありがとう、アリス。いただきます」
食事を口に運ぶが、味わうというよりは、ただ無心に食べている自分に気づく。イーサンと過ごした日々の記憶が、少しずつ蘇ってくる。それは、おそらく彼との交流がないことへの反応であり、彼女がその関係にどれほどの期待を抱いていたかの証でもあった。
婚約者としての責任もあり、家同士の契約としても、彼女はイーサンに対して何かしらの感情を持っていたはずだ。しかし、イーサンが騎士として王家に仕官したことから、彼女の心には微かな冷徹さが芽生えていった。最初は、彼の夢を応援しようと思った。だが、時が経つにつれて、その冷徹さは確固たるものとなり、イーサンの姿が見えない日々が続く中で、エリザベスはそれをどう受け止めるべきかを自問自答するようになった。
食事が終わる頃、再びアリスが部屋に戻ってきた。エリザベスは椅子から立ち上がり、アリスに軽く笑いかけた。
「アリス、少し散歩してきます」
アリスは不安げに顔をしかめたが、エリザベスの強い眼差しに引き下がることにした。
「お供しますか?」
「いいえ、大丈夫です。少しだけ、一人になりたくて」
エリザベスは静かに庭へと向かった。外に出ると、涼やかな風が彼女を迎え、葉の間を抜ける音が心地よく響く。静寂の中で、彼女は少しだけ深呼吸をし、自分の心を整理しようとした。
結婚や婚約、家族の責任。それらすべてを背負ってきた彼女だが、今、自分にとって最も大切なことは何なのかを考えずにはいられなかった。イーサンと結びつけられた婚約という枷が、彼女をどこへ導くのか。もし、このまま何も変わらなければ、彼女はどうなってしまうのか。
エリザベスはその問いに対して、答えを出すことなく、ただ庭の景色を見つめていた。
エリザベスは庭を歩きながら、ふと足を止めた。庭の隅にある古い石のベンチに腰を下ろすと、目の前の薔薇の花が鮮やかな色を放っているのを見つめた。その美しさには、自然の力強さと儚さが共存しているように感じられた。時折、風に揺れる花びらが、彼女の心の奥底で眠っていた感情を呼び覚ます。
イーサンのことが頭をよぎる。騎士として名を上げ、王家に仕官した彼。しかし、それでも彼の存在は、彼女にとってはどこか遠い世界の話のように感じられるようになっていた。家の契約や名誉、責任。そういったものに縛られた彼の選択は、最初は理解できたが、今となってはその決断が彼女の心にどんな影響を与えていたのかを感じることができた。
彼が自分にとって本当に大切な存在なのか、それともただの義務としての婚約者なのか、確信が持てない。
「何を考えているんですか?」
その声に驚き、エリザベスは振り返った。そこには、いつものようにミリアが立っていた。彼女はエリザベスがひとりでいることを心配していたのだろう。ミリアの顔には、いつものように無表情でありながらも、どこか心配そうな表情が浮かんでいる。
「特に、何も。少し風に当たりたかっただけ」
エリザベスは微笑みながら答えたが、その目にはどこか寂しさがにじんでいるのを、ミリアは見逃さなかった。
「お許しをいただけるなら、私もここでお付き合いします」
ミリアが静かに横に座ると、エリザベスは無言で頷いた。ふたりの間に言葉はなく、しばらくの間、ただ風の音と庭の静けさだけが広がっていた。だが、その静寂の中で、エリザベスは少しずつ自分の気持ちを整理していった。
「ミリア、私、ずっと悩んでいるの」
突然、エリザベスが口を開いた。彼女の声は少し震えていたが、決して弱くはなかった。
「イーサンのこと、私はどう感じているのか、わからなくなってしまった。最初は、彼との婚約が家のためにも大切だと思っていた。でも、今はその意味がわからない。彼は私のことをどう思っているのかもわからないし、私もどうしていいのか……」
ミリアは黙ってエリザベスの話を聞いていた。彼女の表情に変化はなかったが、目の奥には明らかな共感が浮かんでいるのをエリザベスは感じ取った。
「エリザベス様、あなたの心が何を求めているのかを、無理に答えを出す必要はありません。時間が解決するかもしれませんし、もしかしたら、気づくことがあるかもしれません」
ミリアの言葉は、エリザベスにとって予想外に優しく、温かかった。それはまるで、彼女が本当にエリザベスを理解しているかのような、深い信頼の表れだった。
「ありがとう、ミリア。でも、私はもう少し、考えたい。イーサンのことも、私自身のことも……」
エリザベスは再び庭の景色を見つめた。薔薇の花が風に揺れるたびに、その花びらが散り、その一瞬一瞬が永遠に続くような錯覚を覚えた。彼女の中にある答えは、まだ見つかっていない。しかし、この静かな時間の中で少しずつ、その答えが形を成し始めるのではないかという予感が、心のどこかに広がっていた。
「エリザベス様、どんな答えが出ても、私はあなたを支えますから」
ミリアの言葉が、エリザベスの心に深く響いた。彼女がどれほど自分を思い、心配してくれているのか、その思いが痛いほど伝わってきた。エリザベスはゆっくりと目を閉じ、深呼吸をした。そして、心の中でひとつ決心を固めた。
答えは急がない。ただ、自分の気持ちを見つめ、信じること。その時間を持つことが大切だと、彼女は感じていた。
「ありがとう、ミリア。あなたがいてくれて本当に良かった」
静かな午後のひととき。エリザベスは再び自分を取り戻し、これから何を選ぶべきかを、ゆっくりと探し始めた。
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