「俺は小説家になる」と申しております

春秋花壇

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斧で親を殺す

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「斧で親を殺す」

その日、空はどこまでも青かった。青く澄み渡る空の下で、町はいつも通りの喧騒に包まれていたが、裏通りにひっそりと立つ一軒の家は、ひどく静かだった。

鈴木の家。昔から変わらない、どこか古びた二階建ての一軒家。だが、その中で起こった事件は、町の誰もが耳を疑うようなものだった。誰もが信じられなかった。こんなことが、この町で、あの家で、起こるはずがないと。

鈴木由香は、まだ十七歳の少女だった。彼女の目には、普段の家族との日々がどこか不安定で色褪せたものとして映っていた。家庭は、表向きは普通だった。父の幸男は町の商店を営み、母の節子はその補助をしていた。だが、家庭の中には何かが足りなかった。愛情も、優しさも、どこかに欠けていた。鈴木家の中で、何かがうまくいっていなかった。

由香は、最近ずっと家で感じる重い空気に耐えられなくなっていた。それは彼女にとって、どうしようもない不安と恐怖を引き起こしていた。父親の暴力的な言動、母親の無関心。何もかもが息苦しく感じられた。そして、ついにその日が訪れた。

夜が更け、鈴木家の周囲は静寂に包まれていた。由香は自室のベッドに座り、静かに考えていた。突然、家の中で何かが爆発するような音が響いた。それは、鈴木家の中で日常的に起こるものではなかった。由香は驚き、すぐに部屋を飛び出して階段を駆け下りると、リビングの扉を勢いよく開けた。

そこには、父親が倒れているのが見えた。母親もまた、床に座り込んでいた。由香の手には、血がついた斧が握られていた。

「お父さん、お母さん……」

彼女の声は震えていた。母親の顔はどこか冷たく、何も言わなかった。父親は、鈴木家の中で唯一の支配者であり、その威圧的な態度と暴力が家族を支配していた。しかし、その父親が今、目の前で倒れている。彼女がその斧をどうして使ったのか、自分でもよく分からなかった。

由香は、自分が一体どうしてこんなことをしてしまったのか、理解できなかった。だが、今、目の前にいるのは、ただただ父親を殺すしかなかった自分だった。

彼女の手は震えていて、その震えがどんどん激しくなっていくのを感じた。斧はずっと重く感じられ、腕が引き裂かれるようだった。

そのとき、母親の節子がぽつりと呟いた。

「あなたが……やったのね。」

由香はその言葉に驚き、母親の方を見た。母親は、表情を崩さずに由香を見つめていた。まるで、何も感じていないかのように。

「お父さん、どうして……?」

由香は涙を流しながら、もう一度聞いた。母親は、少しだけため息をつくと、静かに答えた。

「あなたには、分からないわ。」

その言葉に、由香は言葉を失った。家の中の空気が一層重くなり、何かを告げるような静けさが続いた。

由香は、その後何時間もその場に立ち尽くしていた。彼女の頭の中は混乱していた。目の前で起きた出来事が現実であるはずがないように感じられた。しかし、斧が血に染まっていること、その事実は消えない。

そして、由香はひとつの決断を下した。家を出ること。父親も母親も、もうこの家には何も残っていない。自分の人生を取り戻さなければならない。

彼女は家を出る決意を固め、窓から逃げるように飛び出した。闇夜の中に消えていくその背中を、母親はただ見守っているようだった。

「もう、あなたは自由なのよ。」

それが、母親が最後に発した言葉だった。

由香が町を離れて数年後、その事件は町で語り継がれることとなる。鈴木家の家族は解体され、父親の死は未解決のまま残った。そして、由香がどこにいるのか、誰も知らないままであった。

あの夜、家の中で何が本当に起こったのか。由香は、今でもその記憶の中で揺れている。
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