「俺は小説家になる」と申しております

Troublemaker

「Troublemaker」

「俺のことを、トラブルメーカーだって言ったな。」

その言葉が響いたのは、雨が降りしきる夕方だった。赤い街灯の光が湿ったアスファルトに反射し、まるで不吉な予兆のように感じられる。

佐藤俊介（24）は、肩にかけたバックパックをぐっと引き寄せながら、目の前に立つ男をじっと見つめた。男の名前は石川亮（27）。二人は同じ街に住んでいて、顔を合わせることもあったが、ここまで激しく衝突したのは初めてだった。

「俺が何をしてきたか、知らないくせに、勝手なこと言うな。」俊介の声は冷たく、鋭かった。

石川は薄く笑みを浮かべ、腕を組んだ。「君のことはよく知っているつもりだ。特に、あの一件を見たときから。」

俊介の頭に、一瞬であの出来事がよみがえった。数ヶ月前、彼が仕事でミスを犯し、その結果、大きなトラブルが起きた。部長の怒りを買い、会社内でも信頼を失いかけた。そのことが、今も彼の周りの人々に影響を与えている。

「あれは仕方なかったんだ。俺だって、最初からそんなことになるとは思ってなかった。」俊介は拳を握り締めた。

石川は深いため息をついた。「仕方ないって、言い訳だろう？君はいつもそうだ。問題を起こしては、他人のせいにしてきた。でも、もうそんな言い訳は通用しないよ。」

俊介はその言葉に反応した。だが、それを飲み込むのは難しい。彼は確かに多くの問題を引き起こしてきた。友人関係でも、仕事でも、家庭でも、常に何かしらのトラブルを起こしていた。

「俺がトラブルメーカーだって言いたいのか？」俊介は、石川を見つめながら冷たく言った。

石川は一歩踏み出して、俊介に近づいた。「そうだ。君は、いつもどこかで問題を起こしては、それを他人のせいにして逃げる。でも、これ以上は許されない。」

その言葉に俊介は息を呑んだ。石川の目には、これまで見たことのない冷徹な輝きが宿っていた。それは、まるで彼が俊介を試すかのような視線だった。

「何を言いたいんだ？」俊介は声を荒げた。

「君が何をしてきたか、俺にはよくわかっている。でも、それだけじゃない。君は自分の力で立ち直ることができるはずだ。」石川の言葉は、どこか優しさを含んでいた。だが、その優しさには、俊介が抱えていた過去の痛みを否定するような強さもあった。

俊介は一歩後ろに下がり、空を見上げた。雨はますます激しく降り、地面を叩きつけるように音を立てていた。

「立ち直る？どうやって？」俊介は自嘲気味に笑った。「俺にはもう、何も残ってない。ミスを犯して、全てを失った。それをどうやって取り戻せって言うんだ？」

石川は黙って俊介の言葉を聞いていた。やがて、静かに言った。「君は、もう何度もチャンスをもらっている。でも、君がそれをどう使うかが問題だ。君がこれからどうするか、今がその分岐点だ。」

俊介はその言葉に何かを感じた。しかし、それが何かはわからなかった。ただ、心の中で何かが変わり始めていることは確かだった。彼はもう、無理に逃げることはできないと感じていた。

「俺は、もう何もできないと思っていた。でも、君が言ったこと、少しわかった気がする。」俊介は静かに口を開いた。「もしかしたら、まだやり直せるのかもしれない。」

石川は、俊介を見つめながらゆっくりと歩き始めた。「そうだ。君には、まだできることがある。誰だって、最初から完璧な人間ではない。それに、過去の過ちを乗り越えてこそ、本当の成長がある。」

俊介はその言葉に背中を押されたような気がした。彼は石川に追いつくと、一緒に歩き始めた。今までなら、こうして人と一緒に歩くことが怖かった。しかし、今日だけは何かが違った。

「でも、俺が本当に変われるのか、まだわからない。」俊介は少しだけ、弱さを見せた。

「それでいいんだ。」石川は微笑んだ。「大事なのは、今からどうするかだ。」

俊介はその言葉に深く頷いた。過去の自分にしがみつくのではなく、これからの自分を見つめて歩き出すこと。それが彼の新たなスタートだった。

雨が降り続く中、二人は並んで歩きながら、次の一歩を踏み出す決意を固めていた。